イベントレポート
●アイカム50周年企画「30の映画作品で探る”いのち”の今」

    第15回 医薬と人類 長く深い関係をひもとく <2021年2月13日(土)> 


上田:





みなさまこんにちは。アイカム50周年記念の映画上映会を始めたいと思います。今日はようこそお出でくださいました。コロナウイルスの感染症の緊急事態宣言が延びてしまいまして、みなさまのなかには外出そのものもどうしようか、と迷われた方もいらしたかもしれませんが、今日、こうして集まっていただき、幸い、広々とした空間で(笑い)、ゆったりご鑑賞いただけますので、ご安心いただきながら進めたいと思います。
私、進行役のNPO法人市民科学研究室の上田です。よろしくお願いします。今日は特別の組み方で、長い映画を2本見ることになります。テーマは「薬」です。現代人にとっては、薬の世話になっていない人はいないだろうと思えるぐらい、私たちの生活に密着した存在である、薬ですけど、改めて、うんと歴史を振り返ってみようということで、映画2本見たいと思います。
今日は、ゲストエキスパートとして、山本秀樹先生をお迎えしております。映画を見てから、少し壇上でやりとりさせていただきながら、みなさんのご意見も伺ってみたいと思いますので、よろしくお願いします。
 1本目は『薬と人間』という、1時間ほどの映画です。製作者のアイカムの川村さんの方からご紹介いただきたいと思います。
川村:
アイカムの川村です。『薬と人間』は1977年に完成した映画です。私たちは、薬の三部作と呼んでいるのですが、今日ご覧いただく『薬と人間』と『薬の心を訪ねて』、さらに『薬へのプロムナード』があり、この三本目は4月10日(土)に上映を予定しています。
これは、スズケンさんという薬の卸問屋さんが企画されたのですが、内容に関しては、アイカムの武田会長に一任して、いろいろ実物を訪ね歩いてくれということで制作されたものです。『薬と人間』は割合、オーソドックスな古今東西の薬の歴史を訪ねたもので、特に鎖国時代の日本独自の発展と、その後の明治期から近代西洋医学に日本が参加していくという流れも描かれています。





           ■ 映写   1977   『薬と人間』   59分
   
休憩
上田: それでは2本目、上映したいと思いますが、ご紹介ください。
川村: 先ほどの『薬と人間』の映画は完成後、あちこちで上映会が開かれて、喜ばれました。特に医薬に携わるさまざまな方々、製薬メーカーで開発研究されている方とか、薬剤師さんなどが「自分の仕事に誇りをもつことができた」とたいへん喜んでくださったそうです。
それから13年、『薬の心を訪ねて』は1990年の映画で、やはり59分あります。医薬をめぐる状況も少しずつ変わってきていますし、また別の視点から、医薬について新たに考えてみようというものだったと思います。





           ■ 映写   1990   『薬の心を訪ねて』   59分
   
上田: 改めまして、山本先生、よろしくお願いいたします。
みなさんもいろんなことをお感じになられたかと思います。1作目は比較的ストレートに歴史を辿っていくことで、薬のことを振り返るものだったと思いますが、2作目が・・すごいですよね。哲学的で、かつ、詩的、ポエティックな面もあるし、いのちということを中心に据えて、あまり普段描かれてこなかったような描かれ方をしていると思いましたが、先生いかがでしたか。
山本: 薬に限らず、宇宙の誕生から、生命の誕生、すべての生物の進化・・壮大なテーマであったと思います。
上田: その中で、薬がテーマであるとは思いますが、いろんな問題を投げかけられています。宗教との関係とか、現代の医療が持っている問題とか・・そのへんはどのように感じられましたか。
山本: そうですね。この映画が作られたのは、1本目は1977(昭和52)年、高度経済成長が終わった頃です。一方、2本目の『薬の心を訪ねて』は1990(平成2)年、昭和が終わった頃ですけど、HIV、エイズが出てきた頃で、チェルノブイリ事故(1986年)が発生した頃でした。今から30年前ですが、まあひと世代前の話であり、その頃のことは、現代の教訓になる話がたくさんあったと思います。
上田: 私も個人的には、学生時代、核問題の市民運動に関わっていたものですから、ちょうど雨が降ってきた5月3日に有楽町の駅前で「みなさん、この雨の中には、放射能が含まれているかもしれないんですよ」と道行く人たちにビラを配りながら呼びかけていたことを思い出しました。
山本:
そうですよね。チェルノブイリ事故は確か連休前に起こって、なかなか公表されなかったので、連休の後に公表されました。そして、今から10年前には東日本大震災があり、福島原発の事故が起こっていますので、その時のことを教訓として活用できるのかと思いました。
上田: 位置付けとしては、環境の汚染とか、環境の悪化の問題が健康を左右しているということになりますが、そこで薬をどういうふうに見ていったらいいのか。
山本: 私たち、アイカムさんや地域の市民の方々と一緒に、国連のSDGs 持続可能な開発目標ということで、中でも「地域の学び」について取り組んでいるところですけど、今日の映画は、持続的な社会とは何か、を考える機会になったかと思いました。
上田: 先生は帝京大学薬学部に属しておられ、薬のことももちろん教えておられるでしょうが、公衆衛生を専門にされているということですね。
山本: はい、そうです。今日の映画の中で、感染症と、これからは非感染症の時代になるという話がありました。例えば、結核による死亡が日本では1900年代頭が大きなピークでそれから下がっているわけですね。みなさん、例えば、結核になった文豪の方、正岡子規の脊椎カリエスの話とか、石川啄木など・・戦前は本当に若い世代の結核が多かったんです。それが戦後急に減りました。実は、結核の特効薬のストレプトマイシンが発売されるより前に減ったのです。日本では、第二次大戦が終わって、ストレプトマイシンが発売されて、同じような頃に下がっているんですが、イギリスやアメリカでは、もっと早い時期にピークが下がっているんですね。
 映画の中でも「薬のこともあるけど、公衆衛生の改善もあっただろう」と言っていましたが、まさに薬も大事ですが、それ以上に社会のしくみ、水とか、水道、建物が大切です。たとえば、今、コロナ予防で換気が大事と言っていますが、実は結核も空気、換気が大事です。薬ももちろん大事ですが、総合的に予防すること、治療をすること。いのちをまもるとは、ただ長生きすれば良い、のではなくて、心の癒し、そういうことも含めて、もともと「公衆衛生」の「生」は「いのち」で、いのちを「衛る」ということですが、「生活を衛る」ということも大切だということを、今日の映画を見て、考えてもらえれば良いと思います。
上田: まさに今おっしゃったことが、コロナウイルス感染に悩まされている私たちに通じるのですね。ワクチンが出てきて、それを打ったらなんとかなるだろうと、そういう短絡的な考えではいけない、という捉え方もできるのでしょうか。
山本: そうですね。病気に対して何が効いているか、なかなか難しい。一口に言えないところもありまして、もちろんワクチンは大事な手段で、効果的なワクチンが開発されれば、非常に有効ですが、中には副反応もあります。幸い、今、コロナワクチンが開発されて、一部の国では接種も始まっていますが、比較的、副反応は思ったほどないようで、日本では来週2月14日にも認可されて接種も始まると言われています。ワクチンが導入されることで我々の暮らしも少しは改善されるのではと期待しています。
上田:
なるほど。それにしましても、映画の冒頭に出てきた「ルルドの聖なる水」を求める人たちの列とか、いろんな宗教的な行事をみますと、人間が生き永らえることへの本当に強い思いと、それが宗教と絡んでいるんだなあと改めて印象付けられます。今、こういうコロナの状況下で人々が分断されて閉じこもっていることの中で、どうやったら、人間らしい生活ができるか、を求める気持ちがあると思えてならないのですが・・
山本: それは本当にあると思いますね。特に、病んでいるときは、人と人の心のこもった接触というのが必要であると思います。みなさん、「手当て」という言葉を聞かれたことがありますよね。手当て、というのは本来、痛いところを触って、医者が「いかがですか? 痛くないですか?」、あるいは脈をとって「しっかりふれてますよ」とか、触診、聴診、人と人が特に直接触れて診る・・患者さんにとっては、心の癒しに繋がっていたはずなんですけど、幸か不幸か、今コロナの関係で診察も手袋とかで、直に触れることもないし・・いいことか悪いことか医学も進歩してまして・・以前は、血圧測るにも、聴診器を巻いて測ってましたが、今は器械に手を入れれば、ピッと測れますし (笑)、体温計もピッと直ぐ温度が出ます。
上田: そうですね(笑)
山本: そう言った意味で、今、本当に「手当て が受けられなくなって、不安に思っている方もおられると思いますし、先ほどの南フランスの泉の水も病んでいる方に心の癒しを与えるものだと思います。
上田: もう一つ、代替医療の話も出てきました。中医学とか、薬草療法とか、欧米のホメオパシーとかも出てきましたが、薬、あるいは公衆衛生の観点から見て、どうなんでしょうか。
山本: 代替医療に関しては、WHOでは、一定の範囲では推奨するとしています。ただ、気をつけなければならないのは、伝統医学とはある程度体系だっていること、効用が明確であることが求められており、伝統的医療の担い手をきちんと養成しているかということが大事です。
そうでないと、例えば、ルルドの泉水をビンに詰めて日本に持ち帰って、1本1万円で「これ、がんに効きますよ」と売るような悪どい商法がまかり通る恐れがあります。テレビのCMや、新聞の広告欄にもたくさん健康食品などの広告があって、その中には効果があるものもあるでしょうが、お困りの方、不安を感じている方の、不安に乗じてお金儲けしているのもあるのかと心配しています。
上田: その辺のラインを引くのが難しいところですね。
山本:
そうですね。それから伝統医療と宗教のこともありましたね。武田監督がイラスム教の寺院なども取材されていてすごいなと思いました。特にイラクのバグダッドですが、30年ほど前はまだ湾岸戦争が始まる前で、あの当時の貴重な映像を撮っておられる。残念なことに、今日本ではイラスム教に対する非常にネガティブな印象が広まっています。
実は、西洋は、産業革命以前の中世、ペストが世界を変えました。ローマ教皇の権威がペストで崩れ去って社会が変わりました。その頃は、アラビア地方、中東の方が、科学も進んでいて、アルコールやいろんな薬が中東で広まって、それが世界に広がったという歴史があります。こういった形でイスラム世界を紹介されたことは参考になりました。
上田: そういう意味では、薬学を勉強する方を含め、改めて、医療や薬の社会にとっての意味を考える時に、歴史を遡ってイスラム圏のことまで目を向けていくことが重要だということですね。
山本: その通りだと思います。東洋にも漢方はじめ、日本は、特に漢方をもとにして和漢薬の伝統医学があったわけで、明治以降は、ドイツ始め近代医学を取りいれて、最初の映画にもありましたように、北里柴三郎や志賀潔とか、世界に名だたる活躍をされた方や、アフリカのガーナで黄熱病の研究された野口英世など、先人たちは素晴らしい仕事をされています。
上田: 山本先生も公衆衛生のお仕事でアフリカとの関わりも深いと伺っております。
山本: そうですね。去年の1月アフリカのケニアにいました。ちょうど中国で、肺炎が出ていて大丈夫かという話がでていましたが、2002年から2003年にSARSと、2011〜2012年にかけてMERS、これは中東で感染症が起こっていまして、実はこれらがコロナウイルス一族なんですね。そういった感染症も出ましたが、日本は島国ですし、防疫体制もきちんとしていたので大丈夫かと思ったんですけど、豈図らんや日本にも新型コロナ感染症が現れて、まさか1年も続くとは思いませんでした。
上田: そうですね。
山本: ただ、さきほどペストの話もでましたが、この新型コロナウイルス感染症が世界を巻き込んで、感染が起きてから世界に広がる速さは、ペスト以上で速かったんですけど、これから新型コロナ以降の世界は変わる、いい意味でも悪い意味でもいろんな変化があるのではないかと思います。
上田: そうでしょうね。今日の映画を見ていますと、昔いろんな文明があって、交流もしつつ、それぞれが医療体系なり、薬を作ってきた。それで西洋近代科学で、そういうものを標準化していこうところまでは見えてくるのですが、まさかこの時代に感染症が世界全体を覆ってしまって、同じような対応を全世界が求められる時が来るとはあまり思っていなかったのですが。
山本: まさにそうですね。今日の映画が1977年で、その3年前だと思いますが、石油ショックが起こってトイレットペーパーが店頭からなくなったことがあって、私は小学生でかろうじて経験しているのですが、今の若い人たちにそういう話をしても全然信じてもらえません。その時の教訓として、人々の買占めとか、人々のパニックとか、物事を恐れるということが、社会的混乱を大きくするということを改めて感じましたね。
上田: そういう意味では、こういう事態を乗り越えていくためにも、今日の映画が、人々がなにを癒しとして求めているのか、医療がどういうところを忘れていけないか、という話を描いていて、心に訴えかけるものとなっています。
山本:











特に、最後、印象に残ったのが、ギリシアで民主主義を守るために陶片を使ったという民主主義の話です。昨今、感染症法、インフルエンザ特措法とかが改正されて、罰則が厳しくなりまして、これは非常に問題だと思います。私はあの銀座に豪遊された議員さんたちに感謝しているんですね(笑)。なぜかといえば、実は、あの事がなかったら、まともな審議をせずに懲役刑とか、罰金刑とか決まっていた可能性があるんですよね。
これは、私見ですが、スペイン風邪の時、これはインフルエンザウイルスですが、一波・二波・三波とあって、特に第二波の時がたいへんだった。新型コロナは去年第二波と言われるのが来て、そのあと第三波、今、第三波でしょうが、第二波の後、第三波がくるというのは多くの専門家が言っていたのに、全くその反省というか、スペイン風邪の経験が活かされていない。本来、その時期にしっかり罰則が必要だとか、国会は審議しなければいけないのに、国会はだいぶ休んでいましたよね。安心だから、Go Toへ行こうとかやっていましたが、本来、その時期に、国民の権利とか、大事な問題を国会で審議しないといけないと常々思いますけど。飲食業の方とか、イベントの方とか、本当に困っていらっしゃるわけで、あと療養中に抜け出した方も家族のことが心配でとか、必要な食べ物が来ないとか、それなりにちゃんと事情はあるわけなので、そういったこともせずに罰則だけというのもどうかと思います。
それ以外にも、みなさん、健康増進法ってご存知ですかね。飲食店などでタバコを吸ってはいけないという法律ですが、18年も前に制定されていながらずっと努力義務で罰則がなかったんで、全く動いていなかったんです。で、東京オリンピックがあるから、外国ではそうだからというので、去年の4月ですか、分煙をしっかりするようになったんですね。海外ではもう十年以上前から飲食店でタバコ吸えないとか常識でした。そういうチグハグなことを、我々、一般市民はもっと勉強して事実を知らないといけないと、そういった意味で、今日のようなこういう学びの場というのは貴重だと思っています。
上田:
ありがとうございます。公衆衛生の観点から見た、日本の、しっかりしなきゃダメだぞ、というところを指摘していただいて、たいへんありがたく思います。会場の方からも、ぜひ先生に聞いてみたいとか、こういうことを思った、伝えたいということがありましたら、ご発言ください。
TY: 今日はどうもありがとうございました。先生のお考えを伺いたいのですが、例えば、漢方薬とか、伝統医薬に使われる「麻黄」とかありますが、それはすべて複合剤として入っているのですか。
山本: エキスとして入っているんですね。
TY: 麻黄、一つとっても、エフェドリン以外にもたくさんの薬効成分が入っているんです。それを今、エフェドリンだけを取り出して使っているんですけど、麻黄そのものを使うのと、エフェドリンだけを使うのでは、薬効も違ってくると思うんです。何を言いたいかというと、処方学。処方された薬が本来は、重要なはずなのですが、今、みんなお医者さん、単剤で使っていますね。つまり、処方化されていない薬を飲んでいるわけです。そのへんについて、先生はどうお考えですか。
山本: そうですね。本来、漢方の薬は、漢方の診断学で、「証」を診て・・・ 「脈」も一分間に80とかではなくて、漢方には漢方の脈の触れ方がありますし、「熱 も単に37.5℃ではなくて、体の中の熱の有る無しを、本来の中医は診るそうですが、残念ながら、今の日本の医療では、西洋の診断学に基づいて、それに近い解釈をして薬を出している、ということなので、本来の漢方薬、生薬のものとは効用は違うんですけど、今の一般的な西洋医に、伝統的な漢方の診断学は学んでいないので、それはちょっと無理かなとは思います。
本来は、漢方なら漢方の体系に基づいて処方するのが筋だと思うんですけど、今、薬局でも、生薬を使っているところはほとんどなくて、エキス剤ですね。あくまでも保険診療で認められるエキス剤とか、散剤なら散剤で診療しているのが現実だと思います。
上田: 一言で言うと、チグハグな医療の処方の仕方ということでしょうか。
山本: ベストではないけど、ある程度、経験則に基づいて処方しているというのが事実だと思います。
上田: よろしいですか。
TY:

ありがとうございます。あともう一つ、今なかなか漢方薬が使われないと言うのも一つですが、たしか、今の医学部の中でも、漢方の講義は多少あって、漢方薬を使うお医者さんもいらっしゃるんですよね。その時、彼らが気をつけているのは、やっぱり「観察力」なんですね。お医者さんと患者さんのやりとりが割合あるんですね。
漢方薬は力が弱いから、逆に、患者と医者と双方の共同作業でもって、薬の効果を確認しあっていると思うんです。これから、そう言う意味で、さっきから出ている伝統医学というのは、まさに「観察医学」そのものなんですよね。と、思っているんです。だから、もっと医療は、患者も自分の体に取り入れた薬が、どんなふうに働いているのか、感覚をお医者さんに伝えることも大事かなと思うんです。それが欠けているのではないでしょうか。
山本: ええ、西洋医学、漢方医学を問わず、必要なことだと思います。ご質問、ありがとうございました。
上田: そのほか、みなさんいかがですか。
山本: 私は、武田会長の製作者としてのお話しを伺いたいと思います。今日の二本1時間ずつの映画ですが、この何倍もの取材をされて構成されたと思います。
上田: ぜひお願いします。取材された国の数だけでも相当、半端なく多いということがわかります。
武田:





先生のお話を聞いて、なるほどなあと思って、ものすごく、安心しました。
スズケンさんというのは薬の問屋さんで、『薬と人間』という映画を最初に作ってくれと言われて作り、そしたら『人間』を作れと言われて作り、と次から次へ、ところが、今の『薬の心を訪ねて』を作る段階で、作れと言った彼は、鈴木信次社長は死んでしまったんですね。もう一つ『薬へのプロムナード』も作ったのですが・・・すごく何が知りたいのか、といつも話していたんのですが、ちょっとわからなくて、とにかくお金はたくさん出してくれたわけではないですが、とにかくあちこち行って、全然言葉も通じないんですが、いろんな国で、いろんなことを聞いて、まずは、どう薬がそれぞれ民族の中で使われているのか、をまとめてくればいいのかなということで、必死になって歩いて来ました。
これを作った後、亡くなった後だったので、見せることができなくて終わってしまったのです。だから、ぼくも一生懸命作りましたが、だけど、西洋医学ということよりも、やはり人間がどういう病気、薬と付き合ってきたのかの方が大事かなと思って追いかけてきたのですけどね。
山本: では、三部作のもうひとつも、スズケンの社長さんに代わって我々もしっかり観させてもらいたいですね。
武田:


それと、最初の『薬と人間』の時は、初めての海外ロケで苦労もしましたが、パドバ大学の解剖実習室の撮影は思い出深いです。ここは、解剖台の下に水路があって、舟で遺体を運び込み、運び出したという歴史的なもの。 私たちは海外に出るのも初めてでしたが、世界最古の大学の一つであるバドバ大学は有名な国際科学映画祭の舞台で、1970年に、私たちの原点である映画『生命 哺乳動物発生の記録』が牛頭賞という最高賞を受賞していたのが大きかったです。普通は、この解剖教室も撮影は受け入れないらしいのですが、映画祭の事務総長の女史が歓迎してくれ、てきぱき動いて、撮影させてくれました。他にも彼女の紹介で、歴史的な各地・各所を撮影して回ることができました。 そういえば、この最初の『薬と人間』の完成時、監修された小川鼎三先生と石橋長英先生が、高く評価してくれたことがあったんです。
川村: 日本に伝えられた天然痘の牛痘法のことですね。ジェンナーの種痘が伝えられた、北回りルートは、この映画を作ることで、スタッフが探し出して再発見されたそうです。シベリアから持ち帰ったロシア語の本を、通詞の馬場佐十郎が訳したとありましたね。
武田: それまでは日本には九州から入った南回りルートはよく知られていたけど、北回りルートを見つけたというので、完成試写では、小川鼎三先生と石橋長英先生が立ち上がって、拍手してくれたんですね。
上田: なるほど、そうでしたか。小川先生は日本の医学史の権威ですからね。
山本: 私はお名前しか存じませんが、医学史のレジェンドのような方ですね。
武田: このお二人が認めてくれなければ、それで打ち切りになったかもしれないけど。それで、スズケンさんもすっかり信用してくれて、映画も役に立つな、もう少し、薬のことを掘り下げて映画を作れということになっていったわけです。非常に思い出深い映画でした。
上田: 他に制作に当たられた・・川村さん、どうですか。
川村: 私自身は『薬と人間』の完成直後に入社して英語版やドイツ語版の制作を手伝い、『薬の心』と『薬へのプロムナード』の制作に参加しました。
今日、『薬の心を訪ねて』を改めて見直して感じたのは、山本先生の話にもあったイスラム圏の科学意識というか、医学・医療ですね。
イラクに撮影に行った当時は、フセイン大統領の独裁政権下で、イラン・イラク戦争が終わって1年、さらにその1年後には湾岸戦争勃発という時期で、初めて中東に行くのはいい感じはしなかったのですが、なにしろ、バグダッドには医学校と病院と心身の医療、8世紀に世界初の薬屋があったというので、監督も「ここは外せない」と、恐る恐る出かけて、まあ、いろいろありましたが。
とにかく、科学上の位置付け、というか歴史的にみてもイスラム圏は見直されていいのではと思いますね。古代ギリシアで始まった科学的な萌芽が、中世のキリスト教圏では長く停滞してしまっていた時期、イスラム圏というかアラビア世界で発展していたからこそ、のちに西欧にも伝えられたのだと思います。
学問や研究の分野ではそれぞれの最先端だけ追いかけて、そういう歴史的な成り立ちは大切にされないのかもしれないけど、歴史はちょっと知っていてもよいと思いますけど。
上田: ぜひ、薬学部の学生さんにも見ていただきたいです。自分たちが患者さんに接するとき、それからいろんな国と交流するとき、そうした時に、こうした背景を知っているかどうかということは大きいと思いますね。
山本: 本当にそうですね。映画の中でヒポクラテスの誓いの場面がありましたが、海外の医学部では、このような儀式というのがあるようです。日本ではあまりなかったのですが、最近、見直されていることもあり、私も少しずつこちらの映画を、特に専門職にも、倫理的な勉強のためにも見せていきたいと思いました。
上田:
そろそろ時間になりましたので、この辺で終わりにしたいと思います。 山本先生、今日は本当にありがとうございました。 (会場、拍手)
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