武田純一郎は、映像業界における永年の功績・功労に対し、一般社団法人日本映画テレビ技術協会より、第5回 栄誉賞を受賞致しました。
私が、ミクロの撮影を始めたのは、鈴木喜代治さんや小林米作さんが健在で、私もだいぶ助手をやりました。1965年頃、東大の伝研や予研の先生方からアルバイトで撮影してくれないかという話しがありました。ミクロ撮影となると徹夜になり、遅くなるので誰もあまりやりたがらないんですが、私と、今も一緒にいる何人かの仲間がやってやろうじゃないかと始めた訳です。それはどんなことかというと、ヒトの腸の細胞を培養して、そこに赤痢菌を滴下すると、動かない赤痢菌が細胞の中にどうも入るらしいぞ、それを追いかけてくれないかということでした。そして、顕微鏡撮影で、インターバル10秒くらいでちょうど細胞が動くのがキャッチできるわけですが、それで2日目。それを見ていただきます。よろしくお願いします。
≪映像1.コメットテール≫
細胞の上にくっついているのが赤痢菌です。この赤痢菌が突然、くるっと細胞の中に潜り込むと、物凄いスピードで動き始めたんですね。そこで、これは微速度ではダメだと、セッティングを変えて12コマで撮影しました。そうすると、最初は、物凄い勢いで、赤痢菌が細胞から逃れようとする感じなんですけれど、細胞が死ぬと赤痢菌はその場で増え始めます。この映像を研究者の先生方と撮影スタッフで、フィルムのコマを数え、どの位の速度でどう動くか解析して・・だけど、全然分からないんですね。先生方も分からない。これが分かったのが今世紀に入ってから、35年くらい経てからです。この現象に、彗星の尻尾、コメットテールという名前がつけられました。これは、ミクロの世界の、ミクロコスモスの中の、宇宙な訳ですね。そして、暴れ回って死んで行く。どういうことがわかったかというと、細胞骨格のアクチンが、入って来た病原菌を出そうと、そのお尻にターッとアクチンを形成して追い払うというんですね。だけど、撮影した当時は顕微鏡でも見えないし、どういうことか、わからなかった。でも、私たちは、いのちというものはものすごいおもしろい。生命の世界はわからないことだらけ。顕微鏡撮影はおもしろいじゃないかと思った。そして、東京シネマがつぶれて、私たち仲間が集まって、新しいプロダクションを作って仕事を始めます。胃の薬を売っているところから、必ず賞を獲るからと、お金を集めて作ったのが、次です。
≪映像2 「胃を科学する」≫
胃の中を顕微鏡で見たというのは、昔は、なかったんですね。交通事故で胃に穴の開いたヒトを医者が見たという記録はあるんですが、顕微鏡で胃の中を見たことがない。それをはじめて顕微鏡で撮影したということで、たくさん賞をもらいました。次に、いよいよやりたいことをというのが、私たちは東京シネマで、チックエンブリオで発生を撮っていたんですが、本当は鶏ではなくて哺乳動物で発生撮らないとおかしいのではないか。哺乳動物の発生を撮りたいということで、胃の映画で少しお金を得る事ができましたので、「生命」という映画を東大の産婦人科の先生と一緒に作ることにしました。次、お願いします。
≪映像3.「生命」≫
この映画は1970年製作なんですけど、1970年から発生の元年といわれているんですね。体の中でどういう形で生命が誕生して来るのか・・これをやりながら、いのちの世界とはわからないことがたくさんある、それをリアルな形で顕微鏡で見て記録すれば、とてもおもしろいことになると思って、やり始めたんです。そして、私たちの仕事はいつでも先生方が協力してくれる。撮影すると、次を作りたいと、現在でも先生方が5作目、6作目と同じ素材で連続して作らせる。だから、貧乏でもなんとか食いつないで今まで生きて来ましたが、仲間が増え、好きな者が集まっているので、なんとかこれで食べていきたいというふうに思っています。今、「ミクロちゃん」というドーム映像、プラネタリウム映像、をやっているんです。これは、マジックエイジと言われている5歳から12、3歳の子どもに見せるとものすごく喜びます。いのちの中に入り込んだ形で見ることができる。それを今日はドームではないんですが、ちょっとご覧いただきたいと思います。
≪映像4.「ミクロちゃん」≫
こういう形で、リアルないのちの形を見せていければ、子ども達は、夢中になってみますからね。だから、こういう形で見せていきたいと思っています。
どうもありがとうございました。