●アイカム50周年企画「30の映画作品で探る”いのち”の今」
第13回 心臓と血管 いのちを運ぶシステムを見る <2020年8月22日(土)>
会場は事前に消毒し、換気にも留意し、参加者には、到着時に手洗い・消毒にも協力いただいて実施しました。
上田:
こんにちは。本当にお暑い中、ようこそいらっしゃいました。私は上映会の進行役を務めますNPO法人市民科学研究室の上田と言います。今日のテーマは「心臓と血管」です。「心臓」
は、小さいとき、体のことに少しでも興味をもったら最初に意識される臓器ですね。なぜこんなにずっと動き続けるのだろう。とても不思議です。あるいは生物の発生の段階で、いのちのリズムを作り出すわけですから、心臓が一番めだった、臓器の代表という感じもします。それが体の病気とどういうふうに結びつくか。
そして、もう一つの「血管」は、わかってくればくるほど、いろんな生活習慣病のメカニズムの共通項になっているように思えてきます。人間の健康にとって要となっている一種の臓器と見ることができるのでしょう。
今日は、國本先生をお招きしていますので、映画2本を見てから、みなさんが普段思っていらっしゃることを先生にぶつけていただいて、いろいろやりとりできたらいいなあと思います。実は、今日予定していた2本のうち、1本はより新しい映画に差し替えられましたので、それも含めて、川村さんからお話いただいて、始めたいと思います。
川村:
アイカムの川村です。最初、「心臓 搏動を探る」という1971年の作品を予定していたのですが、その後、見直しまして、今日は1980年の「心臓 そのリズム発生」を上映させていただきます。1968年アイカム創立から3年後、1971年の作品は心臓の内部を初めて内視鏡で見たり、おもしろいカットもあるのですが、1980年の作品では、心臓のリズムを発生するしくみに迫り、映画として皆様にも面白いのではないかと思います。どちらもスポンサーは救心製薬さんです。
映画の冒頭にマメボヤの心臓が出て来ます。ホヤの仲間です。ホヤの血球は透明な球形なので、見えにくいと思いますが、目を凝らしてみてください。心臓は1本の管から形作られるということがご覧いただけるかと思います。原始的な心臓、といいますか、当時撮影したスタッフの間で「雑巾絞り」と呼んでいたのですが、一本の管を捻り、絞るようにして血液を送り出しています。これは東北大学の青森県浅虫にある臨海実験所に行って撮影しました。
そして、哺乳動物の発生の場面で、「血島」というものが出きて来ます。同じ一群の細胞の中から、血球になるものと血管を構成するものが出てくるのです。
リズムを発生させる細胞の膜電位をモデル的にアニメーションで説明する場面が長いのですが、丁寧に説明していますので、見ていただければと思います。
■ 映写 1980 『心臓 そのリズム発生』 37分
上田:
ありがとうございました。やあ、驚きですね。このドキドキしている心臓を内側から見れば、こんなことが起こっているのだということを、改めて見せつけられるすごい映像でしたが、多少難しいところもあったのではないかと思います。もし、気になったことがありましたら、後で質問していただけたらと思います。
それでは次の映画を紹介してください。
川村:
2本目は「生命(いのち)を運ぶ臓器 血管」、これは第一製薬さんの80周年記念で作られました。結構、大がかりな体制で作られたものです。
血管はただのパイプ、管ではない、ということがわかってくるかと思います。生きた細胞でできている血管は、環境変化や、血液成分、神経、さまざまな刺激に対応して、血管そのものが収縮したり拡張したりして調節しています。中でもこの映画では、動脈硬化に焦点をあててみていきます。
国内外で9つ受賞しました。一つ、ご紹介したいのは、この国際産業映画祭のトロフィーです。実は、国内の産業映画祭上位3作品が国際大会に出品されたのですが、この作品は第2位、たしか第1位は大成建設さんの作品だったかと思います。国内第2位のアイカムからは、作品だけ送り込んで、誰も国際大会に行かなかったのですが、なんとフランスのビアリッツで行われた国際大会では、逆転して、第1位になってクリスタルドルフィン(ガラス製のイルカ)を受賞し、さらには「もっとも配給に値する作品」というインフォフィルム賞、審査員特別賞までいただいたのです。 国際大会に参加した会社が代理受賞して持ち帰ってきてくれたこのトロフィー、実物は第一製薬さんに差し上げてしまったのですが、その10年後の2005年には三共さんと合併して第一三共株式会社になりましたから、今もどこかに飾られているといいのですが。
■ 映写 1995 『生命(いのち)を運ぶ臓器 血管』 27分
上田:
これまた大変印象的な映画ですね。この後、少し休憩して、テーブルを囲んでお話したいと思います。
上田:
國本先生、今日はいらしていただきありがとうございます。川口の病院で日々診療にあたられていると思いますが、少しお仕事をご紹介いただけますか。
國本:
國本と申します。日本大学の板橋病院の方でしばらく勤務しておりましたが、現在、川口市立医療センターで病院長をしています。専門は循環器で、不整脈と、心臓MRIを中心に診療しています。心臓の画像を扱ってはおりますが、ここまで細かく入り込んだ画像というのは、私自身も初めて見たものが多いものですから、今日は非常に勉強になりました。また、今回、みなさまに興味あるお話ができたらと思いますので、よろしくお願いします。
上田:
みなさん、たぶん、今日の血管と心臓の映像をみてびっくりされたかと思いますが、まずは心筋梗塞とか動脈硬化とか、そのあたりから、気になることを伺ってみたいと思います。何か聞いてみたいことはありますか。
SM:
友人の子供が、先天的に心臓が悪いのですが、弁に問題が?
國本:
先天性心疾患にはいろいろあります。弁の形成が悪いこともありえますが、先天的に問題があるとすれば、心臓の構造に異常があるケースがあります。先ほどの映画にあった、血管がねじれて心臓の構造ができていく際に、ねじれが逆になる方がいて、肺の方に行く血管と全身に行く血管が逆になってしまう、などといった場合があります。本来塞がるべき孔が塞がらないとか、構造的にある部分が狭いまま残ってしまうと、その代わりとして、他の部分が構造的に正常化しないこととなります。構造的に治せるものもあれば、また、心臓の筋肉は連なって収縮するのですが、その結合が弱く、うまく固まらないで生まれてくるという場合もあります。諸々いろんな病気があるので、それによって対処もいろいろ異なります。本当に動きの悪い場合は、移植じゃないといけないということにもなってしまいます。通常は弁膜症、弁の構造の異常による疾患は成人に認める場合が多いです。
SM:
友人の子供は、いのちに関わるというので、即手術だったらしいです。なかなか生まれた子どもに会えなかったとか。
國本:
たとえば、動脈管という肺動脈と大動脈がつながっている管は、おぎゃあと生まれた時に閉じるものなのですが、それが開いたままという子がいるんです。そうすると、全身に行くべき血管が肺の方に流れてしまうので、肺の方にものすごい血流が流れるままになってしまう、その結果として、肺の血管壁が厚くなってしまいます。肺は本来、そんな血流が来る臓器ではないので負荷がかかることになります。治療としては開いたままの血管を結紮して閉じるだけでいいのですが、このように比較的緊急に手術をしなくてはならないケースもあります。また、新生児の場合は体が小さいのでまずは応急的な処置をして、もう少し大きくなってから、本当の意味の修復をする場合もあります。すぐに手術をしたとすれば、生命にかかわる疾患と思われ、弁というよりは、血管構造とか、血流が残ってしまうとかの異常の可能性が高いと思われます。
SM:
先生は赤ちゃんも診療されるのですか?
國本:
いえ、それは小児科の循環器の先生が診察します。心臓外科の先生の場合も、小児の手術を行う先生と行わない先生がいます。小児の時に手術して経過を診ている子も15歳を越えると大人の循環器の方で診ないといけないのですが、小児科の先生がずっと診ているケースもあります。
生まれたその場で診るのは、NICU(新生児集中治療室)とか、小児の循環器の先生ですね。未熟児で生まれて、保育器で診る場合もあります。
SM:
ちっちゃい子供の手術はたいへんそうですね。
國本:
たしかに小さくて大変だとは思いますが、反面、血管などがやわらかいので、むしろ、大人の方が硬くてガチガチで、手術するのは大変な場合があります。
SM:
ガチガチってどういうことですか?
國本:
血管が硬いんです。手術で心臓を一時止める時、血液を抜いてまた入れるようなことをして、その間、心臓が止まっていても大丈夫なようにポンプを使うのですが、動脈硬化が酷すぎると、管をさすところがないくらい、大人の場合は硬くてたいへんです。本当に陶器みたいにカチカチなんです。その場合は、縫えないというか、本当に措置ができない。
それに比べたら、小児は柔らかくて健全ないい血管ですから、小さいですが、手術自体は傷の治りもいいと聞いています。
上田:
そういう遺伝的なものによる構造的な欠陥というのはいろいろあるでしょうから、診断が難しいんでしょうね。
國本:
授業の知識のようなことになりますが、それぞれ心音の雑音の入り方などが違いますので、その特徴で診ていきますし、負荷のかかるところが違うので、心臓の形も変わってきますから、レントゲンやエコーなども用いて診断します。
上田:
一方で、長い年月を経た後に大人が患うことになる心臓や血管の病気というのは、かなり集中して動脈硬化に由来するものが多いのでしょうか。
國本:
脂質異常症が主体ですね。プラス高血圧と糖尿病があれば進行が早いです。昔は成人病と言い、最近は生活習慣病と言っていますが、今はそういった動脈硬化性が主体な疾患が心臓の病気では多いですね。
SM:
血管は、一番老化の早い臓器というのは本当なんですか?
國本:
血管の老化が早い? 難しいですね。別な診かたをすれば、肺もタバコを吸っている人は肺年齢が高いということはあります。その原因としては肺の構造が壊れて脆弱になる肺気腫の関与が大きいと思います。50〜60歳でなって来る方では、壊れ方は心臓より肺の方が、症状が出るかもしれないです。肺が壊れると、ガス交換する肺胞がなくなってしまうので、酸素が入らない。本当の意味で早く年をとったような状態になっている。もちろん心臓の血管もそういった進行はあります。みなさん、脳ドックでMRIをとる方もいると思いますが、心臓だけでなく脳においても小さい血管のちょっとした詰まりはだんだん出て来るんですよ。たぶんどなたでも出るものなのですが、それが早く出る方と遅く出る方がいます。
SM:
個体差が激しいんですね。
國本:
やはり動脈硬化を起こさせる因子の多い少ないが影響してますね。同じ年だから、みなさん同じになるわけではないです。原因があるからこそ、年をとりやすいということであって、同い年齢の皆が皆、血管が同じ年齢ということはないですね。
SM:
血管年齢チェックということは・・
國本:
僕らはあまりしませんけど、血圧が高かったりすると高く出ますし、一概にあなたは何歳だからどうしましょうという指導は外来では全くしません。
むしろ、粘着・粘稠度といいますか、ベタベタとくっついて詰まりやすい、というのは参考にはなりますが、それを診て指標にはしません。人間ドックではそういう説明はしますが、問題意識をもっていただくことは大事ですから。ですけど、薬を内服したから5歳若くなりましたね、ということはありません。
上田:
不整脈とか、狭心症とか、多少なりとも自分の心臓に不具合があるという人は多いと思うのですが・・そういう人がすべて動脈硬化と関連があったり、重篤な心臓病を患ってしまったりするとは限らないと思うんですが。
國本:
もともと不整脈は、先ほどの映画で自動能の話が出ていましたが、自動能が乱れてしまうなどの不整脈があります。その原因に、虚血性心疾患があります。血管が閉塞したものが「心筋梗塞」
で、少しでも流れているのが「狭心症」
です。心筋は壊死してはいませんが、運動すると悲鳴をあげるのが狭心症です。虚血の結果として出る不整脈はたしかにありますけど、不整脈全部が動脈硬化によるものではないです。全く血管は大丈夫だけど、勝手に活動する細胞がいるために起こる不整脈もあります。
上田:
なるほど。
國本:
むしろ問題なのが、年をとるとともに心房に負担がかかった結果として起こる不整脈です。さきほど洞房結節からリズム発生の刺激が出ているという話がありましたけど、心房が勝手に動いてしまう不整脈があって、それが「心房細動」
です。これは動脈硬化だけが原因となるものではなく、年齢とともに増えて来る不整脈です。何が問題かというと、周期的に拍動していた心房が、震えるような状態になり有効な収縮が起こらなくなり血栓ができやすい状態になるために脳梗塞の原因となりまることです。
今は血液が固まらない薬を飲ませるようになったんですが、高血圧・糖尿病など動脈硬化が原因となるような生活習慣病を持っている方に血栓形成がおきやすいです。血栓形成には年齢や心不全なども関与しており、生活習慣病の管理はやはり大事だと思います。
上田:
年をとって、脳梗塞とか、くも膜下出血とか、脳の病気で亡くなったという話を周りでよく聞くのですが、それは今おっしゃった心臓の心房細動とも関係があるのですか?
國本:
血管がつまる脳梗塞は関係があると言えます。脳梗塞の原因は先ほど説明した心臓内にできた血栓によるものと、動脈硬化により血管が狭くなることによるものと、大きく2つの原因によるものがあります。ですから脳梗塞で来られた方には、心房細動がないかどうかも調べます。
脳出血は高血圧によるものの頻度が高いですが、血圧の治療が一般的となっていることから脳出血よりも脳梗塞の頻度が高くなっています。
上田:
ああ、そうなんですね。
國本:
その他の頭蓋内出血として「くも膜下出血」があります。これは、血管が分岐部で弱くなって、そこに瘤が、「動脈瘤」ができてそれが破綻して起こります。これは動脈硬化の結果と言えると思います。
最近は、動脈瘤が脳ドックで見つかることがあります。昔は開頭して動脈瘤の根元をクリッピングする治療でしたが、今はカテーテルで瘤の中にコイルを詰めるという治療もあるので、早期発見に努めることが大事だと思います。
最近は、脳の集中治療の救急システムもできていて、心筋梗塞のように、すぐ運ばれてきて、すぐ治療もできるようになっていますので、亡くならずに済む方も増えています。
SM:
コイルとかバルーンとか、画期的に手術や治療のあり方が変わった、生命を救えるようになったという年代があるんですか?
國本:
僕が医者になった1990年代には、カテーテルは、まだバルーンでした。PTCA(経皮的冠動脈形成術)はバルーンで、心臓に血流を送る冠動脈の血管を広げるようになっていましたけど、病院によって差はありました。
当初は、狭いところにワイヤーを通して、ワイヤーを伝わらせてカテーテルを進める、その先端で風船を膨らませて、狭いところを広げていました。広げて終わりだったんですが、無理やり物理的に広げるので、かえってそこに亀裂ができたり、血栓ができたりして、再度閉塞する可能性があり、心臓外科のBack upを必要としていました。
SM:
ほう。
國本:
そのバルーンに網目状のネットをつけて、一緒に広げて、広げた後に支えとして残そうというステントができてきた。そのステントができるようになってからは、どこの施設でも再狭窄が減りました。20年以上前からですね。
ただ、そのステントを置いた時に、ステントの内側に平滑筋細胞の増殖による内膜ができてきてしまいます。そうすると、ステントを置いた内側がまた狭くなってくる。ステントの内部は広げようにも単純には広がらないので、刃のついたバルーンで切って広げてまた新たにステントを置くということを行います。
最近は、平滑筋細胞が増えないような素材のステントが使われるようになっています。抗がん剤とか免疫抑制剤を塗って、内膜ができないようになっている「薬剤溶出型ステント」です。かつてはステントも硬くて、折れたり、曲がったところには置きにくいということもありましたが、素材が改良されて、今、第3世代まで来ていて、初期の頃よりはかなり治療成績は良くなっています。
細い血管だと、昔の方法の風船だけで少々広げても限度があるので、広げてもまた詰まることがよくあったのですが、ステントを置けば内腔が保てることになります。血管の根本の主幹部と呼ばれる部位は閉塞が起こると大変な状態になるため手術が選択されるのですが、今はステントを置く処置を選択することも出てきています。
上田:
そうなんですね。
國本:
大動脈の弁の交換も、いまでは手術しないで風船でボンと広げて人工弁を置く治療もあるんですよ。今まで手術できなかった人でも、そこに広げて弁の構造を作ることができます。決して簡単な処置ではありませんが、成功率も上がってきています。
不整脈においても、昔はできなかったんですが、10年前くらいから、心房細動に対してアブレーションというカテーテルで高周波を通電して火傷を作る治療ができるようになって、それが今はスタンダードです。いろいろ治療は進歩しています。
■ 画期的な治療薬 スタチン 残るはタバコのリスク
上田:
一方で、この映画が作られた80年と95年、その時から比べても心筋梗塞や、脳梗塞の方は減っているわけではないと思うんですが・・
國本:
実は、ちょうど1995、6年というのは、スタチンというHMG-CoA阻害薬、悪玉のLDLコレステロールを低下させる画期的な薬が発売となりました。ちょうど僕は留学に行っている頃だったのですが、初めてのスタチンが発売され、悪玉コレステロールが劇的に下がるようになって、明らかに心筋梗塞が減っているんです。
上田:
なるほど。
國本:
だから、カテーテルやっている先生方に聞くと、心筋梗塞で運ばれて来るカテーテル治療の患者さんは減っているそうです。予防の薬として、根本的な悪玉コレステロールを下げる治療ができたおかげですね。それでも下がらない患者さんには最近は注射薬も使えるようになりました。それはもうほとんど悪玉コレステロールがなくなるのではないか、というぐらい下がります。
悪玉コレステロールをしっかり下げると粥状硬化という不安定な動脈硬化の病変が小さくなるのがわかってきました。それまでは動脈硬化は戻らないと言われていたのですが、今は治るというか、戻る可能性があります。決してゼロにはなりませんが、本当に昔に比べて心筋梗塞は減りました。
あとはタバコを売らなくなれば・・と思うんですが (笑い)。 タバコを吸っている限りはゼロにはならないでしょうね。あくまで感覚ですが、30代で心筋梗塞を起こす方がたまにいますが、動脈硬化もなくコレステロールが正常でも、タバコを吸っていない人は、いないですね。若くて起こす人はほぼ100%吸っています。タバコのリスクはかなり大きいと感じています。
上田:
タバコは具体的にどこに悪さをするんですか。
國本:
動脈硬化の原因となる、リスクを何倍にも高めます。また、血管の痙攣させる効果もあると言われています。タバコはそういった血管に対して内膜を傷害してしまうので、映画の冒頭できれいなつるつるのなめらかな血管の内側の映像がありましたが、ああではなくて、コレステロールが溜まって汚い状態になり、動脈硬化病変部位が破綻といって破れる現象が起こり、そこに血栓が形成され最終的に血管が詰まることになります。
皆さん、動脈硬化が血管の25%ぐらいの人と、80〜90%ぐらい詰まっている人とどちらが心筋梗塞になると思いますか?
上田:
それは、やっぱり90%じゃないんですか・・
國本:
ところが25%の人の方が急性心筋梗塞になる率が高いんですよ。どうしてかというと、90%の人は運動するとかなり血流が落ちるので、胸部症状、つまり狭心症の症状の段階で受診することが多い。あとは、徐々に詰まって来ると、周りから側副血行路という、細い橋渡しの血管が発達してきて、先のところになんとか血流は保たれる。100%詰まっても心筋梗塞になりにくいこととなります。
そこで、ワイヤー通して広げれば、心筋梗塞にならずに治療は終わるんです。
一方で、25%の人はまだ狭窄の程度が軽度であり、症状がない。だけど、そこにコレステロールの溜まり、粥状硬化ができていると、それが何かの因子、タバコや痙攣で、プチッとニギビがつぶれるように出て来るとそこに血栓がわーっとできて、詰まるんです。そうすると、側副血行路もできていないので、本当に詰まる。心筋梗塞というリスクからすると、かえって半分より少ない25%の方が高いことになります。
上田:
なんと・・
國本:
だから、普通の狭窄度が高いから危ないという狭心症の概念ではなくなっりました。この1996年ぐらいから考え方が大きく変わって来ましたね。だから、今は「急性冠症候群」という言い方をします。そういったプラークという動脈硬化病変が破綻して、そこに血栓ができて詰まる。100%詰まったら「心筋梗塞」ですし、詰まるまで行かないけど、血栓ができてぽろぽろ飛ぶような状態が「不安定狭心症」ということになる。どちらにしろ、CCUというところに入れて、カテーテルで治療することになっています。
心筋梗塞の概念も変わって来ています。以前は、心筋梗塞が起こったときにできるだけ速やかにカテーテル治療で血流再開を目指すことが目標とされていましたが、最近はCTでの冠動脈の診断が可能となり、先ほどの25%の人も見つかるようになってきています。でも25%の人にステントは置かない。まだ詰まっていないのですから。では、どうするか? スタチンの投与です。動脈硬化は戻るので、LDLコレステロールをがっちり下げる治療を徹底して、普通140を70〜80まで下げる。それで様子を見る。そういった意味では心筋梗塞の治療・対処の概念が変わってきました。
もちろん、相変わらず心筋梗塞を起こす方はいるので、CCUというシステムはあるし、特に都内ではとにかく速やかにカテーテル治療ができるところに運ぶという体制ができています。川口あたり、埼玉はそのシステムがないけど、病院がいくつかあるのでなんとかやっています。都内はすごく発達しています。心筋梗塞に関しては、起こすなら都内でしょうね。(笑) それは半分冗談ですが、最近は日本のどこの地域でも迅速にカテーテル治療が出来るようになっています。その体制を維持するのはたいへんなのですが。
上田:
食事の調査などで、東北地方の人たちは塩分の摂取量が多い、高血圧の人も多いといわれるので、心臓の病気も関連するのではないかと想像するのですが。
國本:
ですけど、東北は高血圧なので、脳出血の率が高いと思います。
上田:
予防という面では、自覚症状がない段階でも、先ほどの25%程度のコレステロールが溜まっている方もチェックした方がいいということになりますか
國本:
予防目的としては、アスピリンという薬を100mgほど飲んでおられる方もいます。本来の鎮痛剤としてより少ない量なんですが、血小板の機能を抑えるので、血栓を予防します。そうなるとみんなにアスピリンを飲ませたらいいのか
ということになりますが、胃の方に潰瘍を起こしやすくなり出血を起こす合併症の可能性が高くなってしまいます。1回狭心症・心筋梗塞を発症した人に二次予防として必ずアスピリンは飲ませますが、発症を抑制する一次予防という考え方にはなっていません。二次予防として、コレステロールはがっちり下げることも行います。悪玉のLDLは140以下でも一度起こした方だったら、少なくとも100以下にする。
上田:
そういう意味では、健康診断でコレステロール値を見て、食事を改善するということですね。
國本:
そうです。運動療法と食事療法がまずは大事ですね。
YS:
1本目の映画で、搏動のメカニズムがわかってきた年代は結構早いのだと思いましたが、あれは現在、考え方が変わってきているのですか。
國本:
いえ、基本的には同じで、変わっていません。アイントーベンが最初に心電図を発明したのが1895年ですが、電極は変わりましたが、心電図をどこで採るかという考え方はほぼ変わっていないんですよ。十二誘導といって12個波形を記録するのですが、その採り方の基本は当時から変わっていません。途中で追加されたのは、そこだけ単体の電位記録するというのは後から追加され、その電位は微小なので増幅して記録するようになりましたが、基本は変わらないです。小さな波形で心房が興奮した後、心室が興奮する、その拍動の波形自体もほぼ考え自体は同じです。
それに対して、不整脈に対する治療は変わってきました。先ほど言った、カテーテルで心筋を焼灼して、不整脈で電気興奮がぐるぐる回るのを止められます。昔は、生まれながらに本来の伝導路と別なところに伝わる道を持っている方がいて、開胸して手術で切っていたんです。その不整脈外科は、今はほとんど行われなくなりました。そういう治療法は変わりましたが、心臓がどのように興奮するかという点については基本的な考えは変わりません。
YS:
両手で採るというのは何か・・
國本:
細かい話になりますが、心電図というのは両手首、両足首、胸に6個つけます。右手の左手の差、右手と左足の差、左手と左足の差で、I、II、III誘導と名前がついています。さらに右手、左手、左足、の3個の波形と胸部の6個で12個となります。そこで、2つの電極の電位の違いで、どれくらい差があるかということで波形が見えるのが代表的な心電図なんです。
昔は椅子に座って、塩水か何かに両手を浸して、そこからくる電位を記録していました。それがアイントーベンのやった方法です。当時の写真を見ると興味深いですが、部屋いっぱいぐらいの大掛かりな機械を使っていたようです。それが今ではかなり小型ですから、技術の進歩は大きいですが理論上は同じです。波形を見ても今と全く変わりません。
上田:
今の心電図の採り方など、1900年代の割と初頭の方で開発されましたが、心筋細胞のイオンの交換などメカニズムがわかってきたのはもっと後ですよね。そう考えると心電図はかなり早い時期に先見の明があったのだなあと思います。
國本:
そうですね。心電図と、先ほどの細胞の波形と、違うなと感じたと思います。個々の心筋細胞で興奮が起こっていて、心臓全体でまとめて見ると、心電図の波形になるというわけです。全体で見る方法が歴史的には先に開発されたということです。一つ一つの心筋細胞にmicro電極を刺して見るとそれぞれの波形が捉えられるけど、心臓全体で合わせて見ると、ある方向、ベクトルになります。そのベクトルが拍動の度に、ぐるんと回転するのですが、それがある意味「投影」されるのが心電図です。臨床の現場からまず始まったことなんだなとつくづく思います。
上田:
映画を見て、心臓がこういうメカニズムで動いているんだ、とか、体の中ってすごいな、と端的に感じられたかと思いますが、感想などいかがですか。
YM:
本当にすごいものだと感心しますね。来月から健康診断も始まるので、自分できちんと自覚して、気をつけたいなと思いました。
上田:
ここまで見事に動いているのだと思うと、大事にしてあげなきゃと思いますよね。
TA:
今日、映像を見てただただ、びっくりして、昔、「ミクロの決死圏」を見たのを思いました。あれはSF映画ですが、あれ以上に自分の体が精巧に出来ていることにびっくりしました。
初歩的な質問ですが、かき氷を食べると、単に胃腸が冷たくなるのではなくて、血液も冷たくなってしばらく涼しいような感じがするのですが、実際に血液はどのくらいで一周して心臓に戻って来るものなのですか?
國本:
1分間の拍動として60〜70回くらいで考えると、1分で5リットルぐらいの血液が流れていて、1周するのに約1分弱という計算になります。ですからスタートしてそれほど時間かからずに心臓に戻ってきます。
ただ、体温は、各臓器で一定になるのが恒温動物ですから、かき氷を食べたからと言ってすぐに20℃になったりはしませんね。もちろん冷たいものが体内に入れば、体温はある程度下がります。
映像で心臓の手術で周りに氷を入れて冷やしていましたが、20〜30℃とかだと思います。食べているだけで心臓が止まっていたら大変なので、かき氷ではそれほどは下がりません。
上田:
冷たいプールに飛び込むと、心臓が麻痺する、というのは本当ですか?
國本:
麻痺するというか、自律神経的な反応で血管抵抗が急激に上昇してしまうことがあります。僕もびっくりして見ていたのですが、先ほどの映像の中で、血管が細かく収縮していましたよね。あれは圧力的に拡張と収縮をしているだけで無く、自律神経によって調整されてもいます。急に冷たい水に入るなどの寒冷刺激に対する反応として、どれだけ血管が締まるかによるのだと思います。ぎゅっと締まると血圧がボンと上がる。それは、寒いと体温を奪われるので、奪われないように血管は締まる反応なのですが、それぞれの血管が締まるとものすごい抵抗力になるので、その負担が悪さをすることになることがあります。即、心臓にということではないと思います。血圧が上がるだけではすぐには心筋梗塞は起こさないと思いますが、脳の方で出血が起こったり影響が出たりする危険性があります。
上田:
そうなんですか。
國本:
実際、あの血管の収縮・拡張の調整で、血圧を維持していまして、動脈硬化でカチカチの血管の人は、その調整も無くなってしまいます。硬い土管状態です。本来、脱水になった時などに、普通は血管が収縮して血液が少なくなった分を調整するのですが、硬い土管状態では調節ができず内圧が急激に下がることになります。
例えば、透析の患者さんでは、3-4時間、2-3リットル抜くんですね。週3回の急激な増減を繰り返すことになり、動脈硬化が起きやすくなります。。長期にわたって透析をされている方は、透析の際の血圧の変動が大きくなることがあります。体外循環で回している血液を体内に戻すと血圧も戻るのですが、調整力・適応力がなくなるんですね。そういった自律神経の調節はものすごく大事なんだと思います。
冷たいプールに入るのも、少し慣らさないと、血管がキューっと締まってしまう、その反応に体の各臓器がどこまでびっくりするか、そういうことだと思います。
上田:
なるほど。高齢者の方でお風呂の時に起きるヒートショックがありますが、そういう反応なんですね。
國本:
それはたしかに寒さだとかに対応できないことで、交感神経が緊張して起こる反応が何かしら心臓に負担をかけることもあるかと思います。
MS:
個人的なことで伺いたいのですが、実は、普段から血圧が低くて、今は60と90ぐらい、一時は58と80の低さでした。年一度の健康診断では、最後に先生の診断では「ああ低い分にはいいよね」と言われ、血圧を上げる薬を使うとかえって危ないからということでそのままなのですが、夕方体温を測っても、35.5℃くらい。そのせいか、こう暑いととてもきつかったり、一応健康で仕事もしているんですが、気をつけたらいいことがあれば教えてください。
國本:
上の血圧が60〜70になってしまうと大丈夫とは言えませんが、80〜90でしたらなんとか、その方の生まれてからの血圧なので、多分それに慣れてしまっているので症状がないのだと思います。
例えば、普段140の方が薬を飲んで80になると、さすがにふらつきます。正常値は、その方の症状が出るか出ないかが重要なので、薬も飲んでいらっしゃらないのでその値であり、症状が無いのであればこのままでいいと思います。一方で、血管としては少し収縮して、血圧を維持しているはずなので、表面の血管は締まり気味になりら体温が低いということになっているのだと思います。格別な症状が無いのであれば意識して血圧を上げる必要はないと思います。
ただ、暑くなると、対応して血管は開くので、その時には血圧がもう少し下がる可能性があり注意が必要かも知れません。
MS:
ああ、そうか。
國本:
だから、脱水は避けるとともに、クーラーなどで気温が暑過ぎにならないようにすることも大事です。水を飲んでいればいいとは言えません。
MS:
信号待ちでもちょっときつい時があります。
國本:
症状が大したことが無ければ昇圧剤は必要ないでしょう。誰でも立った瞬間、血圧が下がるので、血管がキュッと締まるのですが、それができない方は、ふわっとする症状が出ることがあります。そういう症状が出るようならば、薬を飲んだ方が楽になる場合があります。そのような症状が無いのであれば、薬は要りません。あとは、運動して足の筋肉を少し鍛えて、血管を締める筋肉をつけていただく方が、抵抗力・対応力がつくと思います。
MS:
わかりました。ああそういうことで体温も低いんだ、ということが初めてわかりました。
國本:
特にこのところの暑さでは、普通の方でも血管は開くので、体温が高くて血圧が低い方は、症状が出やすいことがあるかもしれません。脱水には気をつけていたく必要はあると思います。
MS:
ありがとうございました。
上田:
アイカムの方に伺いたいのですが、製薬会社のリクエストで作られたと思いますが、この映画で薬の宣伝はしていません。心臓や血管のメカニズムに焦点当ててくれ、というのはどういう意図だったんでしょうか。
川村:
実際に薬は出てこないのですが、第一製薬さんの「血管」は、当時、動脈硬化の薬の開発に力を入れていたのかと思います。創立80周年記念で作るので、まずは会社のイメージアップがあります。それから、医者向けの映画として、動脈硬化関係の大御所の先生方とお近づきになる機会として、映画の製作委員会を開いて、最新の話題を取り上げるという意義はあったと思います。
制作会社としては、何回かの製作委員会に同席して、錚々たるメンバーの先生方のさっぱりまとまらないお話を伺い、それぞれの先生方の専門分野のいい画像を集めたり、なんとかストーリーにまとめあげました。
上田:
そうなんですね。
川村:
周年記念で、結構、予算もかけていただけたので、いろんな試みができました。普通なら何十年もかかる動脈硬化の現象を、細胞レベルで再現できるかということで、例えば、正常な血管平滑筋細胞を30日、40日と長期間培養して、増殖させる物質PDGFを加え、さらに酸化LDL(悪玉コレステロール)を加えて、なるべく起こりやすい条件にして変化をみるという撮影を行いました。ご覧いただいたように、見ているうちに細長い細胞が多角形に変わってきて、いっぱいコレステロールを溜め込むようになる。
思い出しましたが、あれを撮影していたスタッフが、何十日も追いかけてきたあげく、ある時「突然、画面が真っ白くなってしまった。失敗した!」と騒ぎ出したんです。当時はフィルム撮影でしたので、現像しないと見られない、で、現像して見ると一瞬、画面が真っ白になる。何が起こったのか?! そのあと、一コマずつ見れる編集機で丁寧に武田と私で何回も見て行ったら、ほんの数コマ、写っていました。
國本:
あれはTime-Lapseで撮影するんですよね。
川村:
そうです。なので、数コマでも何分、何時間の出来事なのですが、さっき、先生が、ニキビがプチッと潰れるように、とおっしゃった、あれなんです。脂肪を抱え込んだ細胞が、抱えきれなくなってついに破裂した、で一瞬、画面が真っ白になった。いや、撮れていたじゃないか! ということで、今はそれをコマ伸ばしして見ていただくようにしています。
上田:
いやーすごい。
國本:
あれは本当にすごい画像でしたよね。
当時はスタチンの恩恵で、各メーカーは大がかりな予算使うことが出来たんだと思います。今はなかなかできないですよね。あの頃が一番、派手でしたから。
川村:
あれは1995年の作品ですが、あの10年後、第一製薬は三共と一緒になって、第一三共株式会社になったんですね。
國本:
三共がスタチンのメバロチン(ブラバスタチン1992年発売)を出したんですね。第一製薬さんも開発していたのですかね。
上田:
いやーそうですか。専門家の目から見れば、どこが今までにない画期的な映像なのか、見える作品になっているわけですよね。その辺が、直には企業の利益に繋がらないけど、お金を出して、ちゃんと作って見ようというのが素晴らしい。今観るとこういう映像はどうですか。
國本:
いや、本当に先ほど話した、血管が収縮して調整しているところだとか、ああいう画像はほおーっと思います。理論上はそうなのだろうと思っていても、実際に目にすると大違いで、大変勉強になりました。
ただ、残念なことに、最近はメーカーさんもこのような企画はできないんですよね。直接、会社の利益にならないことにはなかなか予算がつけられない時代ですから。
上田:
ちょっと厳しくなっているんですね。
國本:
なんとかならないのかなと思います。こういうのは、本当に財産だと思うのですが。
SM:
人工血管というのはあるんですか?
國本:
あります。かなり前から使っています。ただ単に管でいい訳ではないので、透過性などいろいろ課題があります。血液を運ぶことが主体の役割である大血管のところは作りやすいようですが、最後の細い毛細血管のところを交換するのは難しいです。全身に張り巡らされて、細胞のところに通ってというのはまだ難しいですね。
SM:
どういう場合に使うんですか。
國本:
動脈硬化的に詰まってしまう場合をバイパスさせたり、瘤(りゅう)といって、血管の三層構造が破綻して、こぶみたいになって薄く裂けそうな状態の場合、その血管を弛緩することなどに使われます。大丈夫なところの血管と血管は繋いで外膜は使いますが、人工血管は通り道として使います。
あとは、透析患者さんで、動脈硬化でどうしても穿刺する血管がなくなってきた場合に、血管を繋ぐシャントとして留置し、そこに穿刺を行う目的にも使うことがあります。
SM:
全然知らなかった、そういうことをやっているんですね。
國本:
素材によるのですが、メッシュ状になっていてそこに内膜がついて来る形の人工血管もあります。先ほどのステントではないですけど、表面においておくと、だんだん馴染んでいく。特に解離性大動脈瘤だと、血管が裂けて来て突然死するので、その前に瘤が大きくなって来た時はそういう手術をします。
SM:
それはやはり東京でないと・・
國本:
いいえ、どこでもやりますよ。大動脈瘤の手術は東京だけでなく全国的に行われています。
また、大動脈弁のところが動脈硬化で大きくなる方がいて、弁も大きくなって閉じなくなるんですよ。そうなると、人工弁+人工血管の構造をもつ人工血管があり弁と血管ごと交換してしまう方法をとることもあります。
SM:
すっごいですね。
國本:
大動脈弁を出た後で、心臓を栄養する血管(冠動脈)が出るので、人工血管に孔を開けて、そこにつなぐというような処置も必要になります。
SM:
それはいつ頃から実用化されて・・
國本:
人工血管ですか・・もう30年以上前からじゃないですか。僕が医者になってからはあります。素材は日々進化していると思いますが。大きい血管は、そこから血液が漏れなければいいから、管さえあれば大丈夫なので開発は早くから進んでいました。先ほど述べたように未だに毛細血管は交換することはできないので、むしろ、薬で新しい血管を発生させて、末梢の方は血流を回復する治療がでてきています。
川村:
あの・・人工血管でなく、自己血管、自分の静脈血管を動脈硬化ができた血管と交換するという治療法があるそうで・・自己血管ですから、何年かすると取り替えなくてはならない人工血管より生着がよく、長く維持できるとか。
國本:
それは確かだと思います。
川村:
その時、静脈血管には逆流を防ぐ静脈弁があるので、動脈の血管として使うには邪魔になる、実は、その弁を除去するカッターを製作している所の依頼で、最近、撮影したんですよ。
國本:
ああ、なるほど弁を壊して使う。
川村:
それがその製作所の技術力で、しぼめた傘を差し込んで、引き戻すときにその傘の裾のカッターできれいに弁だけ切り取るという優れものなんです。
國本:
下肢静脈瘤も、昔は、瘤でぼこぼこした血管そのものを引き抜いて除去していましたが、今はレーザー治療を行う様になっています。でも、血管の中の弁を抜くというのは・・
川村:
撮影はヒトの血管ではできないので、ブタとかシカの血管、伝手を辿って入手に協力してもらいました。
中川:
映像ありますが、ご覧になりますか?
川村:
これが静脈血管の内部にある二葉弁です。この弁があるおかげで血液が逆流しないんですね。
國本:
こういう画像自体、僕らは見たことがないですね。
静脈血管にはこういう弁があるので、血液が戻らないんです。それで少しずつ上に上がっていく。
皆:
へぇー。すっごい。
本当にカッターですね。なるほど。
川村:
それで、内皮を傷つけずに、弁だけきれいに切り取れるんです。
内径は3mmとか、もっと細いものも。
皆:
いまの映像では流れていたのは血液なんですか?
國本:
あれは撮影のために水でしょう、血管取り出して、点滴かなんかの生理的なお水だと思います。
川村:
そうです。血液だと見えないので、生理食塩水を流して撮影しています。
武田:
この映像の制作を頼まれたのは、板橋区内の小さな製作所さんです。こういう映像を撮りたいけど撮れるか、ということで。
國本:
需要はあるんですか?
川村:
実際に自己血管の手術されている先生も喜んで、こういう映像は初めてみたと評価してくださって、術式の研究会などで活用してくださっているようです。
國本:
それこそ、静脈瘤のレーザー治療で、その前後の映像って、メーカーの方は欲しがりませんかね。治療するとどうなるのか。見てみたいですね。
川村:
残念ながら、今までのところ、ご依頼はありませんが。
上田:
今回は専門的な映像ではありましたが、インパクトがあり、心臓の不思議、血管の大切な役割、健康にとっての重要さを皆さんが実感できて、大変よかったと思います。
どうもありがとうございました。 (拍手)