イベントレポート
●アイカム50周年企画「30の映画作品で探る”いのち”の今」 第1回 ガンをみる、がんを語る <2018年4月21日(土)> 
上田: それでは始めます。今日は妙に暑い日になりましたが、皆様よくお出で下さいました。アイカム50周年の連続上映会の企画です。私は進行役のNPO法人市民科学研究室の上田です。私は10年程前からおつきあいがあり、いろんな意味でお世話になったり、上映会をやったりしてきましたが、アイカムが50年を迎えて、節目となるこの時期に何か出来ないかということで、10回くらいシリーズでアイカムがたくさん作って来た映画の中から精選して、毎回、テーマも決め、ゲストも招きという企画をし、実現となりました。
 今日の進め方ですが、前半、映画3本、区切りに短い紹介を入れますが、立て続けにみていただき、そのあと、休憩を入れ、後半は専門家の林先生からお話頂いた後に、みなさんで意見交換の時間を設けたいと思います。後ろにつまめるものと飲み物を用意していますので、休憩からは自由にお摂りください。
 では、全体の上映会の趣旨というか、ねらいを川村さんからお願いします。
川村:
アイカムの川村です。アイカムは1968年8月15日を創立記念日としてはじまり、今年で50年、それを記念しての映画会です。実は、50年前、人類は月を、宇宙をめざしていた、人類が初めて外から地球の姿を見たのもその頃です。それを見た、現在は会長の武田が、もう一つの宇宙を見に行こうじゃないか、それは体の中にあるということで、この会社を作って、生きた細胞・組織の顕微鏡撮影を得意として、今まで続いています。
 今日、ご紹介する1本目は、1973年『ガンと闘う人々』、会社創立から5年目の作品です。この中に、もちろん顕微鏡撮影も出て来ますが、当時のガン研究・治療に、がんと闘うといういろんな取り組みが紹介されています。医者向けに作られたものですが、現在の私たちにとっては割合、わかりやすい内容ではないかなとも思います。歴史的な意味もあるかと思います。
◆上映 1973 『ガンと闘う人々』 45分
川村: アイカムでは、この50年間に1000タイトル以上の映画を、医学映画が多いのですが、主として生命科学関係の映画を作って来ました。次の映画は、1994年の『癌の暴走を阻む』、1本目の20年後です。1本目の映画でラストのクレジットタイトルに出てきた先生方と同じ名前も出て来ますが、若手から大御所になって、時代の流れを感じます。1本目は協和発酵さんの企画で、MMCという言葉が何度か出て来ましたが、マイトマイシンCという有効な抗がん剤なんですが、2本目も医者向けに作られたヤクルトと第一製薬の新しい抗がん剤、化学療法に関する映画です。
◆上映 1994 『癌の暴走を阻む』 25分
上田: 3本目はとても短い、どちらかといえば子ども向けの映画なのですが。
川村: 2006年の『バイオでがんとたたかう』という映画ですが、今までの2本と違い、子どもたちにもがんをわかるようにしたいということで作られました。北の丸公園にある科学技術館で、中外製薬さんの企画で、細胞の100万倍の部屋を作り、バイオのくすり研究室に見立てまして、当時、中外製薬さんは抗体医薬でがんに取り組んでいた訳ですが、短い中に、手術・放射線・化学療法とそれに続く、免疫療法まで描いています。
◆上映 2006 『バイオでがんとたたかう』 4分
上田: みなさんも身の回りにがんになった方、亡くなった方もおられるかもしれませんが、実際にこうして研究され、治療されて、手術の現場も実際にこうして見ることはなかなかできないのではないかと思います。そういう意味で、真に迫るというか、迫力ある映像だったのではないかと思います。ここで10分間の休憩とします。
- 休憩 - tea time
上田: みなさん、映画を見られて、いろんな感想をお持ちになったと思います。がんというのはもちろん聞いたことがあるし、身の回りにそういう体験した人をもっていることも当然あるでしょうし、でもがんについて正式に学んだことのある人は非常に少ないのではないかと思います。お医者さんの言葉を通して、がんですよということを聞くだけで、なかなか学ぶ機会のないのが日本の現状かと思います。そういう中で、こういう映画も作られ、研究者も日夜、研究しているという現状もあって、やはり少し身近に感じて、私たちも、医者とともにがんと闘う仲間というんですかね、そういう者としてのあり方を考えてもいいのではないかという気がします。
 今日は、林医薬開発研究所の代表でもある林治久さんにお出でいただいていますので、今から20分程、スライドを使って教えていただきたいと思います。よろしくお願いいたします。
◯林 治久先生のお話  <がん治療の昔と今>
林:
林と申します。残念ながら、まだ、がんでは、これを飲めば、あるいはこれで治療すれば完全に治るという治療法はないんですね。従いまして、いろんながんの薬を組み合わせて、また手術や放射線など治療法を組み合わせて、なんとか治療しようというのが現状です。
 化学療法・薬においては、こういう患者さんにはこういう治療がいいだろうという標準治療があるのですが、一次治療として用いた薬で一旦がんの増殖が止まっていてもまたがんが大きくなると、二番目の治療法で治療し、それでもまたがんを押さえられなくなると、別の薬剤を用いた三次治療を行うというように多段階で治療を行っています。
 また、新しい薬が出て来た時には、今までの標準治療にどう併用したら(組み合わせたら)いいのかを研究する必要があります。がんの薬というのは厚労省の認可を得たら、すぐ使えるというものではない。どういう使い方をしたら従来よりも最も効果が高くて、最も副作用が少ないかを確認する臨床研究をしないとなかなか使いこなせないのが現状であります。この臨床研究を私はお手伝いしています。人を対象に行った研究を臨床研究と言っているのですが、私はこの臨床研究をお手伝いしていまして、私は医者ではありませんので、医学的な深いところはお医者さんにお願いしたいと考えます。
 先ほど見ていただいた1本目2本目の映画はお医者さんが対象なので、これをすべて理解するのは難しいと思いますけれども、私は、今のがん治療がどんなふうになっているのか、簡単にお話したいと思います。プリミティブな話ですので気楽に聞いていただければと思います。では、スライドをお願いします。

 <がんに関する統計>では、現在は、日本人の3人に1人ががんで死亡しています。そして、日本人の2人に1人ががんになるとなっています。ということは、ご夫婦のどちらががんになっても不思議はないことになります。先ほどの映画では4人に1人ががんで死亡と言っていましたが、それは45年前のことで、今では3人に1人ががんで死亡、男性20万人、女性13万人と、非常に大きな数字で、がんは他人事ではすまない状況になっています。そういうことを認識していただきたいと思います。がんとはどんなものか、他人事ではなく、がんは誰でも罹る可能性のある、珍しくない病気です。

 <がん治療の未来予測> 先ほどの1本目の映画は1973年の作品でしたが、1971年の未来予測では、「約25、6年経てば、より有効な抗がん剤で、ほぼ完全な治癒が期待出来る」と考えられていました。即ち、2000年頃には、がんの完全な治療ができると予測していたのですが、残念ながらそうはなりませんでした。それから20年後の1990年には、どのように未来を予測したかというと、「40年後(即ち、2030年頃には)にはがんの治療薬が出来る」と思われていたのですが、そうもいきそうもありません。
 今年2018年ではどんな予測をしているのでしょうか。2030年になっても「がんの死亡者数が年間1330万人に達する」ということで、2008年(760万人)に比べて約2倍になっています。そして、「2050年には、80歳未満のがんの死亡者がなくなる」。と予測しており、決して明るい見通しにはなっていません。
 宇宙に行くとか、ロボットが出来るなどは未来予測が実現していますが、がんの治療については、45年前には、ほぼ完全な治療ができるだろうと思われていましたが、その予想が全然外れているのが現状であり、残念なことです。

 <がんはなぜしぶといか>先ほどの映画でもありましたが、がんは自分の体の中でできているんですね。細菌やウイルスなどは、自分の体の外から来るもので、それらについては人間の身体にはいろいろ防御する方法があるのですが、自分の体の中で作られているというのが、一番、曲者なのです。体の中で細胞は常に作り替えられています。胃や腸の上皮細胞は5日間で新しい細胞に替わっています。皮膚も28日、赤血球も120日たつと、新しい細胞に置き替わります。生まれた時の細胞のままではなく、古いのは捨てられて、新しい細胞ができて替わる。即ち、細胞増殖です。映画にあったように、細胞が増殖するにはDNAがコピーされて、分裂して2個の細胞になる。ところが、このDNAのコピーが失敗して、異常がものできてしまう。こうした異常な細胞に対して、ヒトの体は異物として攻撃しているので、大半の異常細胞はやっつけられているんですけど、その攻撃をかいくぐって生き延びたのが、がんなのですね。従って、この攻撃にやられないようなものばかりが残っているのが、がんなので、通常の異物と違って攻撃されにくい、やっかいなものなのです。
 今、遺伝子レベルでだいぶいろいろなことがわかって来ました。がん細胞の増殖を左右するアクセルとブレーキ、がんはそのブレーキをかける機能が壊れているので、異常に増えて、栄養も横取りしてしまう。それは遺伝子レベルで理論的にはわかってきているが、がんの治療にはまだまだ結びついていない。がんの一番嫌らしいところは、転移です。最初にできたところにじっとしていてくれれば、そこだけ手術して取ってしまえばいいのですが、体の他の部分に転移、移動してしまって、そこでまた増えてしまう。そこでまた自己増殖してしまうのが、がんの一番嫌なところです。
 
 <がんの治療法> がんの治療は、まず手術で取ってしまう。取りきれればいいけど、先ほど言ったように、転移がありますので、放射線治療や薬物療法、この3つを組み合わせてやるのを集学的治療と言っているのですが、一つの方法で済めばありがたいけど、それではどうにも済まないので、組み合わせてやる治療が出来ているわけです。1本目2本目の映画、45年前・25年前には、この3つが大半の治療でした。最近では、免疫療法というのがあって、3本目の子供向けの映画にありましたが、新しい免疫療法もあります。
 それから緩和ケアというのは、がんをやっつけるのは難しいから、がんの患者さんのクオリティ・オブ・ライフ(QOL)、生活の質を高めながら、がんと共存して、痛みとか、がんが悪さするのをなるべく減らしてあげようというのが緩和ケアであります。

 <抗がん剤の種類>として、まず、1本目の映画にあった「細胞傷害性抗がん剤」で、がんが増えるのを妨害する。いろんなメカニズムをもついろんな種類の抗がん剤がありますが、いずれもがん細胞をやっつけるという方法です。それに対して、「分子標的治療薬」というのは、がん細胞がもつ目印を分子レベルでとらえて、それを標的として効率よく作用する方法です。がん特有の目印を頼りにして攻撃する、この分子標的治療薬が、最近、新聞等でもよく話題になっています。この薬は開発費や製造費がかかり、値段が相当高いので、患者さんの金銭的な負担もたいへんですし、厚生労働省の保険財政も非常に苦しくなっているのが現状問題ですが、この分子標的治療薬が今、流行って、活用されています。

 <胃がんに対する最新の分子標的薬>としては、2011年ハーセプチン(標的分子HER2)とか、2015年サイラムザ(VEGFR)、2017年オプジーボ(PD-1)が認可されて話題になっている状況です。従来の抗がん剤に比べると、分子標的薬は、がんの成長に関わる分子を阻害するので、がん細胞をピンポイントで攻撃する。従来型の抗がん剤は、がん細胞の分裂を抑えるため、がん以外の細胞、増えないと困る皮膚とか赤血球とか常に増えて作られている細胞も一緒にやっつけてしまうので副作用が非常に強い。それに対し、分子標的薬は、正常細胞には作用しないで、がん細胞を特異的にやるので副作用も少ないという特徴があります。

 <テーラーメード医療> 個々の人は遺伝子の型がそれぞれ違っています。顔も違うとか、いろんな部分の遺伝子が違うわけですが、個々の体質はそれぞれ個人差があります。遺伝子検査や遺伝子診断が、現在、普及して来ていますので、個人差をつかんで、その上で、個人差のある体質に応じた医療をしようということが今、なされてきています。個人の遺伝子を調べて、この患者さんにはこの薬がよく効くとか、副作用が少ないとか、わかるようになってきました。この患者さんにはこの治療法が一番いいのではと選択して治療する、こういうのをテーラーメード医療と言っていますが、個人個人に合わせた治療をしていこうというものです。

 <切除不能進行・再発胃がんの標準療法> これは、切除不能、つまり手術で取りきれないほど進んで大きくなってあちこち転移している、あるいは一回手術で取ったけど、再発した胃がんの患者の標準療法です。今、一番いいのはどういう方法かというと、一次治療でこういう治療をして、効かなくなったり、がんが大きく成長(増悪)してきたら、二次治療としてこういう治療をしようと、二次治療でまたがんが大きくなって来たら、三次治療でこういう組み合わせをやろうというものです。乳がんなどでは、四次治療・五次治療もできています。
 これは、HER2という遺伝子を調べて、陰性の患者さんには、こういう治療法をやろう。HER2陽性(プラス)の患者さんには、先ほど言った(ハーセプチン)トラスツズマブという分子標的薬を組み合わせて治療し、二次治療、三次治療はどうしようというところが、遺伝子を調べた上で治療法が最近は用いられています。
 もちろん、その前に手術で取れるものは取ってしまう、放射線療法もできるものはやるわけですが、切除不能や再発している患者さんには、一次治療・二次治療・三次治療、こういう化学療法でやるしかないのが現状です。

 <がんとどのように向かい合ったらよいか> まず、がんの予防ということで、 これは、国立がん研究センターで言われている12か条ですが、(1)たばこを吸わない。先ほどの映画に、肺癌になってもタバコを止めないのだという患者さんが出て来ましたが(爆笑)、たばこを吸うのは一番悪い、統計から言うと最悪です。それから(2)煙を避ける、副流煙ですね。吸っていない人も一緒にタバコの影響を受けてしまう。(3)お酒はほどほどに。飲むなとは書いていないけど、ほどほどに飲んでください。(4)バランスの取れた食生活。(5)塩辛い食品は控えめに。(6)野菜果物は豊富に。(7)適度な運動をしてください。(8)適切な体重維持。(9)感染予防と治療。(10)定期的ながん検診をする。(11)身体の異常に気づいたら、すぐに受診する。(12)正しいがん情報でがんを知る。
 つい最近、がんの研究センターから、4年間に5万7千人の患者さんの調査結果で、がんの10年後生存率が発表されましたが、いろんながん全体で55%。前回の結果より10.3ポイント良くなったと発表されました。治療法はだんだん進歩してはいるのですが、まだまだ完治には至っていません。がんは、I期、II期、III期、IV期と進行が進んできます。10年生存率は、全部位では、早期のI期ならば81%、IV期では13%、胃がんの場合T期で90%、W期で6%。大腸がんならば、I期で91%、IV期で10%ですから、早期に発見・治療することが極めて大事です。がんは、早期に発見・治療すれば恐くないけど、発見が遅れると非常に治療が難しくなります。再発したり、切除不能ということになってしまいます。
 なるべくがんに罹らないよう節制して、頻繁に検査して、早期に発見、治療を開始して取ってしまうのが、がんに対する一番いい方法ですね。なるべく早く見つけるというのがポイントではないかと思います。

 <まとめ>ですけど、がんはポピュラー、誰が罹っても不思議は無い病気であります。ですから、がんについて自分自身で勉強しておく。自分や家族がなった時に、お医者さんの言っていることが何を言っているかよくわからない、理解が出来ないというのは一番困ったことになるわけです。病気は、お医者さんと患者本人との協力関係で直すものですので、お医者さんの言っていることが理解できることが大切です。がんについての情報をよく収集して吟味して下さい。がんの特徴、増殖の速さとか、転移はどのように起こるか、どんな治療法があるんだろうか、経験豊富な病院を選択する、経験豊富なお医者さんにお願いするとか・・今いろいろ情報もありますので、自分で調べて、がんに限らず、どんな病気になっても賢い患者になることが肝要です。
 それから、薬には、必ず副作用があります。自分が治療を受けている薬にどういう副作用があるのか、知っていれば、そのような徴候があった時に、すぐ医者に言えば、その薬を継続するべきか、違う薬に替えるべきか、考えてくださいます。自分の薬についての効果と副作用を必ず自分で把握して下さい。インターネットなどでも情報はたくさんありますので、自分の病気や治療法についてよく理解することですね。
がんは早期に発見・治療すれば完治するので、早く見つけることと、早く治療する、病気のことと治療法について勉強して、お医者さんと一緒になって、病気をやっつけるということを考えていただければと思います。  (拍手)
◯意見交換
上田: 林先生にがんについて話していただいたので、普段、ガンについて疑問に思っていたり、こういうことはどうなんだ、とか聞いてみたいことがあれば、先ほどの映画に刺激されてということでも構いませんが。
参加者SY: 林先生はがんの学会には良く行かれますか?
林: 研究所にいた頃は、癌学会とか、がんの基礎の学会には良く出ていましたが、今は癌治療学会など臨床に関する学会に出ています。
SY: 映画で最初に学会の様子が出て来て、先生達がいたけど、男の先生ばかりしかいなかったんで (笑)・・ (ああ、あれはすごかったなあ。)
最近は、女性の先生方も多いんですか。
林: 女性の先生は増えてはいますが、学会はちょっと特殊なムラがありまして、理事は男の先生が今でも多いですね。昔は、内科は女性のお医者さんが多かったんですね。白血病やそういうがんについては多かったんですが、最近は、外科も女性のお医者さんが増えてきたけど、手術で何時間も立ちっぱなしで体力もいるしハードな職業です。
SY: これから増えるんですか。がん関係では女性が少ないということもあるんですか。
林: 医学部には女性もたくさんいます。女性は、結婚したり、子供さんができる、時間の制約もあり、なかなか戻って来れない方も多ですが、最近は環境が変わってきていると思います。小児科や婦人科は女性のお医者さんが多いんですが・・。
上田: 私から一つ、抗がん剤は、いろんな臓器のがん、それぞれ個別に効くものなのか。それとも、どんながんにも適応できるものなのですか。
林: 抗がん剤には、それぞれ作用メカニズムがあり、どういう部分に作用してがんの増殖を抑制するかによって、あるものは共通していてどんながんにも効く可能性があると思うんですが、今、製造販売承認の方法は、それぞれ胃がんなら胃がんについてデータを出す必要があり、大腸がんなら大腸がんのデータが必要、というように個別に承認することになっていますので、例えば、肺がんで承認を取ったからと言って、胃がんには使えません。勿論、保険医療ではできないんですね。
上田: なるほど、それぞれ臓器別に・・
林: そう、臓器別にそれぞれ臨床試験をやって、承認を取らないといけない。
参加者NH: 介護関係の仕事をしています。私の担当している、40代の末期がんの方とか、本当に亡くなるギリギリまで抗がん剤、化学療法をされているんですが、看護師さんと話をすると、もう抗がん剤ではないんじゃないかとお話するんですが、病院の先生はやはりギリギリまで抗がん剤で治療される。体に対するダメージが大きくて、私はむしろしない方がいいんじゃないかと素人目には感じたりするのですが、どこまで化学療法するのか。ここからはもう緩和ケアじゃないのか、そのラインというのは先生それぞれの考えで・・ちょっとそのへんが疑問なんですが。
林: 最近は、インフォームドコンセントと言って、治療法についても、患者さんによく説明をして、患者さんの意見を聞きながらやるということになっていますので、もちろん患者さんがやってほしいと言えば別ですが、患者さんがもうがんの治療をやめて、緩和ケアで痛みだけ取ってくれとか、食欲がでるようにしてほしいとか、緩和ケアの方を要望すれば、医者が、何が何でもこうしなければということはないと思います。ですから、患者さんや家族が、お医者さんに良く話をして、こういうふうにしてほしいとお願いするのが一番だと思います。
 何がなんでもがんをやっつけても、寿命がつきてしまっては意味がないので、最近は、がんをやっつけるより共存しようという考えが増えて来ています。即ち、がんをやっつけなくても寿命までがんと共存していければいい、という考え方です。実際には、それを患者さんがどう考え、家族の方がどう考えて、先生にどうお願いするのか。先生にお任せではなくて、自分で考えて、自分のがんがもうこれ以上治りそうもないので抗癌剤の治療を続けるより、家族と一緒にいたい、旅行したいとか、そのためには緩和ケアがいいとか、いろんなことを考えて、自分の意思を主張することが大事だと思いますね。
上田: なにかサポートできるような感じがしますね。
参加者NH: その辺の判断が、自分がもしがんになったとしても、どこまで主張できるのか、判断出来るのか、不安ですね。たしかに、クオリティ・オブ・ライフを大事にしたいという思いもありますけど、やはり生きたいという思いもありますし、そこの判断が医療者じゃなくてはわからないのではないか。適切に判断していただけるのか、さきほどお話のあったように、症例によって、この抗がん剤でどの程度の生存率が期待出来るのか、医療者としての挑戦に巻き込まれるということはないのかな。そういうことも考えてしまうのですが。
林: 先生はたくさんの情報を持っていますが、どのような治療を受けるかについて最終的に判断するのは患者さん自身です。自分や自分の家族ががんになった時、どう考えるのか、いろんな思いがありますよね。そのためにも、がんに対する知識をもって、先生とよく話をするということでしょうね。
参加者NO: 病院の選び方ですが、ネットで調べていい病院だとわかっても、外来に行って診察を受けられるのでしょうか。やはり紹介状が無いと・・
林: そうですね。大きな病院は紹介状がないと、受け付けないですね。紹介状は、自分の掛かっている、かかりつけのお医者さんに、どこの病院に紹介状を書いてほしいと頼めばいいのです。
 医者と病院は、自分や自分の家族が病気になった時には、色々な情報を探して良く選ぶ必要があるのではないかと思います。
参加者SH: 薬の選択で、一次治療から三次治療という選択の仕方があると伺いました。一次治療とされるのは、それが一般的に良く効くお薬だからなのか、それとも副作用が少ないからなのか。あるいは費用が安いからなのか。
林: 先ほど申し上げたように、私は医者ではありませんので、医学的な深いところはお医者さんにお願いしたいと考えますが、一次治療は、多くの患者さんで最も効果が高く、副作用が少ない治療が選択されています。しかし、人によっては、一時的にはがんが抑えられても、だんだん効かなくなったり、副作用が予想外に強く出たりすると、別の治療法、即ち二次治療に切り替えます。三次治療も同様です。
 効果や副作用はどのように調べるかというと、500例とか1000例ぐらいの患者さんに参加してもらい、色々な治療法を比較する臨床試験を行い、統計的にどちらがより効果があって、副作用が少ないかを検証します。即ち、効果と副作用の両方を見ます。効果だけで決めることはありません。効果と副作用を合わせて、臨床試験の結果、どちらがベターな治療かということを学術論文に発表して、今までの治療よりこちらがいいと世界で認められれば、次から標準治療が新しく変わります。値段については現在のところ考慮されていないと思います。
 標準治療は日本癌治療学会、日本胃癌学会(胃癌の場合)等で決められます。それが治療ガイドラインなどの本になっていて、一般のがんの先生方はそれを参考にして治療をします。
患者さんのステージ進行度により治療法は違います。初期のがんでは手術で終わってしまいます。少し進行したがんでは、手術前後に補助的に化学療法を行うこともあります。手術不能例・再発例に対しては、一次・二次・三次とこの様な標準治療法を行います。
SH: 標準治療をやってみたけど、あまりうまくいかないから、標準治療より効き目がないかもしれないけど、もしかしたらこっちが効くかも知れないから選択することだと理解していいんですか?
林: いいえ、標準治療とは、手術不能又は再発のがんに対してまず、一次治療としてどのようなお薬を選択するか、一次治療の薬で治療して、一時的に抑えられてもがんがまた大きくなってくるとか、副作用が強くて治療が継続できなくなるようだと、二次治療法に替える。
SH: 二次治療に切り替える時に、どういうふうな判断をされるのかと思って・・一次治療は一番良く効く・副作用も少ないと思われているけど、それが今ひとつ効かなかったということで、二次治療に切り替えるわけですね。
林: 今ひとつ効かないというのは、がんの大きさが今までより大きくなったとか、転移が増えたりしてしまう、がんが抑えられていない状態ならば、次の治療に行くということですね。
SH: 次の治療というのは、たぶん一次治療よりも効果としてはあまり不確かかもしれないものが選ばれているということなのかな、と思ったのですが。
林: いや、そうではないですね。患者さんによっては、こっちの薬は効かないけど、作用機作のちがう、こっちの薬は効くとかいろんなことがあるのです。一次治療は標準で、大方の人には一次治療で効くだろうということで、一次治療に選ばれているわけですね。そこで一次治療して、この患者さんには効かないなとなれば、二次治療して、これもあまり良くなければ三次治療へ行く。
 がんの治療は、副作用との戦いでもあります。薬の特徴として、赤血球や白血球などの血液成分に副作用が強く出るもの、下痢や吐き気など消化器症状が強く出るもの、神経毒性を持つもの、皮膚症状の副作用が強く出るものなどがあり、患者さんの側でも人によってある副作用に特に強く反応する人もあります。  がんは抑えられているけれども、副作用が強くて治療が継続できず、治療法を変えざるをえない場合が多々あります。
 薬によって作用機作が違うんですね。その患者さんにその薬の方がよければ、継続してその薬を使う。・・説明になっています?
SH: わかりました。
参加者SY: 臨床研究、試験をされているということで、最近は、臨床試験の参加者はたくさんいるものなのですか? 病院で良く募集しているのを見かけますが、あれは臨床試験でやると少し安いとかあるのですか。
林: 厚生労働省が承認する前にやる臨床試験は、「治験」と言って、その薬は全部無料です。医薬品メーカーが製造費用を全部払って無料でやります。ところが、承認後に、標準治療としてどちらが好ましいかとか検証する「臨床研究/試験」と言っているのですが、その場合の薬は保険で支払われる保険医療となります。本人が1割負担ならば薬剤費の1割を負担します。
 ですから、承認前の「治験」なのか、承認後の「臨床研究/試験」なのか、よく聞いた方がいいですね。「治験」というのはあくまでもメーカーが承認をとるためにやる臨床試験なので、血液検査などいろんな検査費用も無料となります。
SY: ただ、承認を得ていないものですよ、と。(林: そうそう) そうすると、効かない可能性もある、副作用の強い可能性もあるという説明されるんですよね。
林: 説明されます。患者さんにとってメリットとデメリットなど説明されて、本人が了解して署名を文書に書かない限りは、その試験に入れてはいけないことになっています。
SY: その説明って結構たいへんというか、患者もよく理解した上でやらないといけないと思うんですが、そのへんはどうなんですか。
林: まず、患者さんに対しては、中学校卒業程度の方が誰でもわかるような説明の文書にしなさい、となっています。その文書を基に良く説明して、本人が納得して参加しますとなったら、参加の署名をしてもらう。そういう形で、今は、厳格に患者さんの人権擁護になっています。
SY: ご本人が良く理解されているなと確認した上で・・
林: そうです。無理矢理押し付けたり、参加しないと治療してあげませんよなどと(笑)、絶対言ってはいけないことになっています。
◯映画について
上田: 先生、どうもありがとうございました。(拍手)
それでは、残りの時間、映画そのものについて、振り返ってみたいと思います。これは専門家向けの映画、みなさんが普段目にする映画ではないのですけども、どうやって撮ったんだろう、どう使われているのだろう・・いろんなことを思われるかと思います。いわば、科学映像のこれからの活かし方にもつながると思います。まず、制作側の川村さん、武田さんに、こういう映画がどういう経緯で作られたのか、どういう苦労があったのか、少し語っていただけるといいかな。
川村: 1本目の『ガンと闘う人々』は、私はまだ入社前で、武田や長谷川に聞いていただければと思いますが、この映画の見どころは、がんの転移のところで、顕微鏡撮影で、血管にがんの塊がつまって、血管のそばにがん細胞がこぼれてそこで分裂している、というのは、なかなか見られるものではないと思います。
 説明し忘れてましたが、ラストタイトルに「シネ・サイエンス」と出ていましたが、初めはシネ・サイエンスという社名でスタートして、1992年創立25年の時に、今の「アイカム」に社名変更しています。
上田: 武田さん、一本目の映画のことで何かあれば・・
武田: だいぶ前のことなのですが・・この映画が作られた経緯を思い出しました。若手の医者たちの教育に、がんをひも解く。ということで、どういうふうに作るかという時、とにかく、主だった先生方を集めて、まずは最初に話を聞こう、それから奥へ突っ込んでいけばいいのではないかと考えました。主だった先生方に並んでもらって、こういうことを聞いて、こういうことを聞いてということで始まったんですね。ちょっと時間かかっています。先生方のところへ行って、先生方が培養室の中に入って汗かいて実験やっている、そういうところまで突っ込んで行って撮影したりという感じですね。新しい治療法を議論している学会から、研究、手術、放射線治療の現場、病棟の患者さん、家族、看護師さん・・だから、勉強しながら追いかけて行ったということです。
上田: 映画には直接、先生方にお話伺っているシーンも出て来ますし、学会の風景も何回か出て来ます。ということは、先生方が実際に、研究している現場に入ってとにかくそこで撮るんだということで、作られた映画ですね
武田: そうです。だから、ストーリーというよりも、ドキュメンタリーというか、追いかけて作ったという感じですね。がんというのはどういうものか、一般の人に、仲立ちするような形でわかろうとして撮影したのですが、結局、一般の人もちょっと難しい。でも先生方に教えていただいて作りました。
上田: ありがとうございます。
武田: ぼくたちが医学映画、科学映画をやり始めたのは、とにかく体の中を見たいということで、シネ・サイエンスという名前で始めたんですよね。ベネチア国際映画祭の科学映画部門がパドヴァ大学で行われるんですが、そこで、最初に、二本続けて賞を獲りました。一番やりたかったのは「生命」なんです。『生命』の映画を作りたくて始めたんですが、最初は胃袋、太田胃散だけがお金を出してくれて、他の製薬会社は出してくれなくて、『胃を科学する』という映画を作ったんですね。その頃まで、病気で胃に孔の開いた青年を医師が覗き見ることだけだったけど、ぼくたちは顕微鏡で撮りたいものだから、胃の粘膜を、マウス、ラット、ウサギなど使って顕微鏡で撮ったんです。
 それはパドウァの大学で上映されヨーロッパの方々がびっくりされた。胃を顕微鏡で見たことがなかった。それで太田胃散の映画が受賞したというので、漢方薬関係の救心やビオフェルミンだとかが、「じゃ、俺んところでも作れ」(笑)という形で、お金をもらったんで、それで『生命』を作ることができた。
 顕微鏡で生体を撮るというのが面白かった、というか夢だったので、他ではあまりやらない撮影・映画製作をやって今まで50年続いてきたのですが、ちょっと今あたふたとしています。
上田: 振り返って見ると、私ぐらいの世代では、中学時代から細胞の動画をテレビで見かけることが出てきたというイメージがあります。でも、考えて見ると、それより10年、20年遡って、そういう映像が当たり前にあったかというと、たぶんなかったんで、そういう意味で今のお話は世界的にみて非常に先駆的な仕事だったのではないか、そこが評価されていたのではないかという気がします。NHKなどで生命の番組があり、当たり前のように顕微鏡映像とか、ミクロの映像も出て来ますが、50年、60年前にそんな映像があったのか、ということを想像しながら、映画も見ていただけたらいいかなと思います。
武田: NHKで「人体」という番組を最初に作ったのは28年前、その時はうちで撮影したものをNHKが持って行って作ったんですね。今は「やりますから」と挨拶は来るけど、うちからは持って行かない。全部、CGです。CGというのは、僕に言わせれば、いのちの現場に立ち会えないですよね。頭の中で考えて作るから、だから、ちょっとずれているというか、そういう感じがしますけど。
上田: なるほど。映像のあり方ですね。
参加者SY: 二本目のCGはすばらしいなと思ったのですが、1994年段階では、あの程度のCGを作るのはたいへんだったのか、でも最近、あんなDNAとトポイソメラーゼの関係とか見ない、すごく素晴らしいと思ったんですが・・
上田: CGとしてもすごくわかりやすいというか・・製作者からどうですか。
川村: あの映画の中で非常にお金のかかっているのはあそこです。あれはうちで作ったんではないんです。うちの美術のスタッフが付きっきりで作らせたのですが、当時は社内にCGを作る設備・機械がなかったので、外で、あの時代にしては先端的なCGだったと思います。ものすごくお金を取られました。
 なぜ、あそこに頼んだかというと、この薬はトポイソメラーゼという酵素を阻害するのが特徴で、トポロジーは三次構造ですが、映画の中でもトポイソメラーゼがここを切って、ここをつなぐとDNAのねじれが少なくなるとか出て来ましたが、あそここそ、表現したかったんですね。そこでDNAの立体構造を三次元のCGで作れるところを探したんです。ところが、その肝腎なところが今見ても、いまいち、実感できない。もうちょっとわかりやすくできるのではないか。あれだったら、うちで模型でもなんでも苦労してやった方が良かったのではないか・・・たしかに三次元でDNAがヒストンに巻き付き巻き上げられて、染色体になるところは、彼らも面白かったらしく、一生懸命作ってくれて、あそこはまあまあなんですが、肝腎の作用機序のところが、あれでわかるのかなとちょっと不満が残っています。 
上田: それはおもしろい指摘ですね。
川村: それで、やはり他人任せではだめだということになりまして、その後、社内でCGが出来る体制をつくることになりました。武田からもいのちの現場、という話がありましたが、うちのCGがよそと、ひと味違うのは、実際に生の映像を見ているスタッフが作るというところでこだわっています。
上田: なるほど。実際、顕微鏡で観察できる生の映像を頭に入れながら、CGでどう補足するか、ということで作ってらっしゃるんですね。
参加者YA: 日本の科学教育映画は1930年代に始まっているんだけど、たぶん、その最初はCGではないけど、アニメーション。それをこの前、初めて見て、ここから始まっているんだなと思った。一つ伺いたいのは、その当時、学校の先生が、たとえば、こういう映像を授業で使う時、自分の都合のいいところを切り取ってそのまま授業で使うのか、あるいは、作品を大切にして全部見るのか。先生の補足のために自分の話に合うように切り刻んでみせていいのか。1930年代の「動く掛け図論争」ですね。NHKテレビの学校放送が始まった時も同じ論争があった。制作者としては、全体を見て欲しいんだなと思うんですが、いかがですか。
上田: アイカムの作品で、学校現場で、この部分を使っていいですか、ということはありましたか。
武田: ありましたね。で、あの、シネ・サイエンスからアイカムという名前に変わったというのは、要するに、いのちはアイカム分子、細胞膜の膜分子で仕切るわけですよね。で、アイカムという名前に25年前から変えたのですが。僕たちは僕たちで、生きているものを見て、細胞分裂でも何でも、夜通し生きている細胞を見て、撮影しているわけです。それがないと、ただのアニメーションでもちょっと違うんですよね。そこのところは、僕らの根性というか、がんばりだと思うんですけれども。
上田: たとえば、今日見せてもらった映画も、全体として資料映像として、使うメーカーの立場とかあると思うんですね。資料としての価値が確実にあるのと、もう一つは、今、武田さんがおっしゃったように、作品全体を通して、いのちそのものを感じとって、知ってもらうという面がありますよね。私は、アイカムのどの映画を見ても、そう思うのですが、たしかにメーカーの要請に応じて作った資料映像という側面はありつつも、全体として訴えたいことがある・・
武田: 今日の映画でも、がん細胞が血液を流れていて、外へ出てきて分裂するという映像は、僕らが撮ったんです。それはNHKでは撮れない・・。
上田: そうしますと、ずっと観察を続けて、科学的証拠として映像が活かせるものを見つけるということを地道にやっておられる。映像の中で、発見していくということですね。
武田: それを先生方に見せて、「これは、間違いなく外に出て来たがん細胞がここで分裂してますね。」という了承を得て使っています。
上田: そこが、徹底しているという感じだね。すごいなと思うんですけど。
参加者YA: 今の話は、どんなに古くなってもその映像が長く残るというのはあると思うんですね。僕は1960年代の岩波科学映画の白黒映画を見て。今日の映画もそうだけど、がんの研究は進んでいるのだから古い映画はもういいんじゃないかという向きもあるかもしれないけど。だけど、重要な場面はあるし、それぞれの映像も良かったということと、今日、すごくよかったのは、1970年代と1990年代と進展も見られて、二つ比較出来るという点ですごくおもしろかった。
上田: まだ、ご発言のない方、どうですか、音楽の方ですね。
参加者DY: はい、やはり時代で比較出来ておもしろかった。音楽の方でもちがいがあって。
上田: どのへんが違いとして、変化として面白いと感じられますか。
参加者DY: 最初の作品は、『ガンと闘う人々』というものものしいタイトルで、ものすごく暗い音楽か (笑)と思ったんですが、そしたら、ハープとフルートとチェロと3つしか楽器を使わず、バロック的な音楽で、想像と全然違ってびっくりしたんですけど。今、お聞きしたら、音楽は作曲家に任せて、作曲家の感性でつけられたということで、びっくりした。90年代となるとやさしい感じで、2006年は短い作品ですが、十分効果をあげていると。
上田: おもしろいですね。
林(治久): 歴史的なところでいうと、1本目を見て、マイトマイシン、アドリアマイシンなど、私も研究した頃のなつかしい薬もあるけど、通常は少ない量で長期間やっていたんですが、それを1ショットで大量投与して効果も出て副作用も少ないという研究から、マイトマイシンという同じ薬でも新しい投与法が出てきた。映像を見ることで、そういう歴史もわかりますね。今の療法とは違うけど、なぜそういう療法になってきたのか、よくわかります。
上田: 医療者の方も、見て見ると、今使っている薬が、昔はこう使われていた。なぜそうなるんだということで、学べるんですね。
林: それがまた次の使い方の参考にもなる。
SY: 手術の場面と、患者さんに説明している場面も印象的だったんですけど、最初の映画では、胃がんのそのものをメスで切るところがあって、・・手術なんて直接見たこともないので(大笑)、どの程度の手術なのかわからないけど、すごい見事な手術と見えたけど、あれは1回で撮りおわったんですか。
 ヘビースモーカーに説明されているのも見事で余計な言葉を使わず、必要なことばで説明されていた。あれも1回の撮影ですか。
武田: 手術のシーンは、そのままです。そのまま一発で撮っています。
SY: 許可を得ている感じなんですね。
川村: 許可とっていないと手術場に入れないですよ。
宮川: スタッフも手術着つけて、機材も消毒しないと入れませんから。
SY: あの手術された先生は、名人なんですかね。
上田: たいしたものですよね。許可して、一発で入って撮っていいと決めたのだから。
武田: そうですね。胃がん治療の有名な先生でした。先生方と仲良くなれないと、お話もつながっていかないし、どれをつかえるか、十分に許可してくれましたね。手術場にはスムーズに入れました。そして、顕微鏡で撮っているのは、僕らが自分達でマウス、ラット、ウサギを開いて撮影していますので、先生方もそれを知っていますので、スムーズに許可してくれましたね。
上田: それはすごいですよね。こちらの生体を扱う技術のことも知っていたから。それから、もう一つの、ヘビースモーカーに説明するシーンですが・・
川村: あの映画で苦労したのは、あの患者さんを説得することでした。あれは実は再現です。良くなった患者さんでないと、遡って紹介できませんから。ドクターはこの患者さんがいいです。きっと撮影に同意してくれます、というのですが、実際に患者さんにお会いしてお願いするのはスタッフなので、一回はOKしてくれたのですが、大阪ロケに出かける前日になって、電話があって「なんで俺は出るんだ」と言われて、どうしようと思いました。(笑) でも、翌日来てくれて、いろいろお話して納得して出てくれました。
宮川: 撮影自体は一発撮りでしたよね。あのとき、僕、患者さんの横で録音マイクもってました(笑)けど、一発で長回しで。先生と患者さんがうまかったんだろうと。
SY: 先生はいつも通りなんでしょうね。
上田: そうでしたか。
林(治久): あの肺がんの患者さんも、もう一つの子宮体がんの患者さんも、非常に良く効いた症例で、ハッピーで良かったなあと思うんですが、そうじゃない患者さんもいるわけですが、見ていてハッピーな映画だと思いました。
上田: 1作目はどういうところで使うために作られたのでしょうか。
武田: 協和発酵さんが、先生方に見てもらう、特に若手の先生方に見てもらいたい。ということで、話をして、先生方にみてもらうならば、最初にこういう映画全体のスタイルを、日本の有名ながんの先生方を並べて、そこから入りましょうという入り方をしました。
上田: がん研究、がん治療にあたっている日本のトップの方達の姿を記録に残したい、と理解していいですか。2本目はヤクルトと出て来ましたね。
川村: ヤクルトと第一製薬ですね。カンプトテシンという新薬を発売する時に、どういう薬か紹介するための映画です。当時は、医薬メーカーのMRさんが、医局を訪ねて新薬紹介させてもらうという形で使われました。実際は、薬の詳細なデータなどは、この映画の後に数分続きました。ちょっと長めでしたが。
上田: もうすでにアイカムのドーム映像で、非常に精緻な映像をみた方も多いと思いますが、今回、このシリーズではテーマごとに、やはり作品の数が多いですから、時間がたってみて研究がどういうふうに進んだかというあたりも体験出来るシリーズにしていけるかなあと思います。
川村: 次回は6月23日(土) 15時から、腸内菌叢、腸内フローラをテーマに予定しています。『腸内菌叢と宿主・前後編』で、武田から話のあった、まさにドキュメンタリーで追いかけて行くようなものになっています。そのあと、少し年代経ちまして、『共生のはじまり』というビフィズス菌センターの30周年記念で作られた映像です。今日も会場にいらしていますが、この映画の時に実際に無菌動物を作っていただいた細野先生に、ゲストコメントをいただいて行いたいと思っています。
上田: 私も前もって見ましたが、映像で科学探究するということがビンビン伝わってくるような迫力の作品ですので、お時間あればぜひまたいらしていただければと思います。  (拍手)
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