第76回 日本細菌学会総会
2003年04月01日(火)-03日(木) 場所:ホテル日航熊本
日本細菌学雑誌 58(1)187, 2003
アガロースブロックを用いた
抗菌薬薬物動態シミュレーションのための新しいin vitro実験感染モデル
富田勉1), 菊池賢2), 森山ひとみ1), 戸塚恭一2)
1) 株式会社シネ・サイエンス研究所、2) 東京女子医科大学感染制御科

ヒトの薬物動態を反映した抗菌薬のin vitro実験感染モデルはin vivo感染モデル、臨床治験の前に、抗菌薬の有用性を判定する上で不可欠である。しかし、従来のモデルは投与初期の感染病態を反映できないでいた。このため、反応槽にフィルターを設置するなどの対策が取られたが、目詰まりなどの問題のために実用化には程遠かった。我々は低融点アガロースに生菌を封入したブロックにより、この問題を克服した新しい抗菌薬薬物動態シミュレーションのin vitro実験感染モデルを開発した。

対象菌には黄色ブドウ球菌MRSA COLとMSSA RN2677を、対象薬剤としてcefazolin, ampicillin/sulbactumを用いた。薬物動態モデルはone compartment modelを用い、反応槽の菌液を従来法のサンプルとした。新法は菌を1.5%低融点アガロースに封入し、ナイロンメッシュ上で固め、反応槽に入れ、経時的に採取した。ブロックは、アガラーゼ1Uで処理し、生菌数測定を行った。反応槽、アガロースブロック内の薬物濃度をbioassay法にて確認したところ、いずれの測定時間でも両者はほぼ一致していた。従来法では薬物投与開始から3時間は希釈効果により生菌数が見かけ上増加してこなかった。

一方、新法では直後より対数増殖が得られ、生菌数の減少は見られなかった。MSSA RN2677、MRSA COLに対し、ampicillin/sulbactumでは1.5gの1回ないし、12時間おきの2回投与で除菌可能であった。cefazolinはMSSAに対しては1g1回投与では12時間以降に菌の再増殖を認め、除菌には2回投与が必要であった。MRSA COLに対してはcefazolinは有効な効果を示さなかった。

この結果、ampicillin/sulbactumは常用量でも MRSAの治療薬として使用しうることが期待された。今回開発した実験感染モデルは、簡便で生体内の薬物動態と感染病態を同時に再現できる優れた系と考えられた。

【学会で発表した映像】

【学会発表より抜粋。】図はクリックすると大きく表示されます。
ヒトの薬物動態を反映した抗菌薬のin vitroの実験感染モデルは、臨床での抗菌薬の有効性を判定するために不可欠です。特に、耐性菌の出現を許さない投与法など、抗菌薬のより有効な使用法の検討に欠かせません。しかし、薬剤濃度を希釈によって変化させるため、これまでの多くのモデルは、その希釈効果により、実用上問題がありました。
今回の目的は希釈効果による従来法の問題点を解決し、シンプルで信憑性の高いin vitro薬物力学実験モデルを開発すること、さらに開発したモデルを用いて、抗菌薬の使用によって、耐性菌の選択が起こるかどうかをin vitroで検証することです。
従来の方法では浮遊状態の菌を接種することによる問題点が挙げられます。 薬剤濃度変化を実現するための急速な希釈により、系外への細菌の流出が避けられません。このため、結果の解釈には煩雑なデータの補正が必要になりますが、正しく補正することは難しいと言わざるを得ません。
そこで、今回の実験では、細菌を寒天に埋め込んで薬剤を作用させるという、新たな薬物力学モデルを考案しました。 菌数の増減は 所定時間で取り出した寒天ブロックから細菌浮遊液を得て、平板寒天培地に塗布し、コロニー数をカウントして行います。
浮遊状態の菌を薬剤に曝す従来法では、潅流による希釈効果により、見かけ上菌の増殖が見られない。実際には増殖しているので、測定値の補正が必要になる。これに対し今回の方法では、速やかな菌数の増加が観察されます。希釈による影響は見られず、測定値を補正無しにそのまま扱うことができます。
MSSAとMRSAを100:1で混和して同じ寒天ブロックに封じ、アンピシリン/スルバクタムを作用させた結果です。 12時間おき2回の投与では、このようにMRSA, MSSAともに消失しました。
一方、セファゾリン1g2回投与では、MSSAは消滅しましたが、少量混和したMRSAが増殖し、選択されることが確かめられました。
今回開発した新モデルのメリットは、コントロール培養での菌数低下が見られず、測定値の補正が不要であること、一回の潅流実験で簡単に複数サンプルが扱えること、同様に複数菌感染のモデルとして使用できること、さらに、定着し増殖するという、生体内での感染病態に近い状況を再現可能であるということが挙げられます。 また、デメリットとしては菌数測定のため、寒天から細菌浮遊液を得るための処理過程が挙げられますが、20分程度であり、補正の要らない信頼性の高いデータを得られることを考えると必ずしもデメリットとはいえません。
以上、今回の実験をまとめますと、アガロースブロックに菌を封入した、新規薬物動態力学モデルを開発しました。これは、従来法の問題点を解決し、簡便で信頼性が高く、しかも安価な優れた方法です。多剤耐性菌感染に対する治療法を検討する上でも、有用なツールと成り得るものと考えます。
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